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びしゃっ

 冷たい川を渡り終えようとした、その時だった。

 頼りない橋の手前で、一人の参加者が、泥の中に崩れるように倒れ込んだ。


 びしゃっ──

 水と泥が跳ね、顔から地面に沈み込む音が、静かな川辺に不気味に響いた。


 けれど、誰も立ち止まらなかった。

 見て見ぬふりではない。誰も、ほんとうに“止まる”という選択をしなかった。

 それが、ここでは普通のことのように続いている。


 僕も、同じだった。

 その一歩で崩れかねないバランスを、守ることに必死だった。


 倒れた子は、自力で立ち上がった。

 膝や腕は泥だらけで、水着の脇が破れていた。

 背中の「143」という数字が、汚れに滲んで、読めるかどうかも怪しかった。

 でも彼は、歩き出した。

 ゆっくりと。休憩所の方へ向かって。


 自己申告ではない。脱いでもいない。水着を脱いでいない以上、彼は“まだ続けられる”状態だった。

 ルールの上では、誰も彼を止めることはできない。


 ただ、それでも、その背中には明らかに限界の気配があった。


 僕はその姿を、ただ見送るしかなかった。


 ふと横を見ると、彼女も、それを見ていた。

 でも、彼女は目を逸らすでも、止まるでもなく──

 何もなかったように、また前を向き、歩き出していった。


 淡々と、川へ戻っていく。


 まるで、そこに倒れた子など、最初からいなかったかのように。



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