僕の横には
日が落ちてきた。冷たい川を渡り終えたばかりだった。
疲れはもう、腕とか足とか、そんな場所にはなかった。
自分の意志で動いているのか、それとも、ただ転がるように前へ進んでいるだけなのか──
もう、その違いもよくわからなかった。
でも、僕のすぐ近くには、いつも「268」の彼女がいた。
隣を歩いてるわけじゃない。いつも横にぴったりってわけでもない。
彼女は前を行くときもあるし、後ろにいるときもある。
歩く速さも、呼吸のリズムも、まるでバラバラだ。
でも、気がつけば、彼女の存在を、僕はずっと感じていた。
川を渡るたびに、身体がもっと重くなる。
黒い水着は水を吸って、肌にぴったり張りついていた。太ももに冷たくまとわりつき、肩の紐が食い込んで、動くたびにチクリと痛む。
それでも、前へ進めた。
理由は、よくわからなかったけど──
彼女がこの場所にいるという、それだけで、不思議と諦めずにいられた。
言葉は交わしてない。名前も知らない。
でも、彼女の背中や横顔が、何度も僕を止まらせずにくれた。
ちらっと見る。
彼女は無表情なまま、ただ前を見つめて、川へと足を踏み入れていた。
心だけは、なぜか一緒にある気がしていた。
そんな気がするだけ。きっと、僕だけが勝手に思ってるだけ。
でも──それだけでも、今の僕には充分だった。
誰かと並んで歩くって、たぶん、こんなに心強いことだったんだ。




