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何も話せなかった

 二人並んで席につくと、僕は小さな咳払いをひとつして、無理に平静を装って箸を持った。

 手が、ちょっとだけ震えていた。

ふたりで並んで座ったけれど、食事が始まると、僕は何も話せなかった。

 何か言いたいのに、喉の奥が詰まって、口を開けるタイミングがわからない。

 唐揚げをひと口かじりながら、視線だけが、自然と隣をちらちらと追ってしまう。

 彼女は、小さな器を両手で支えながら、スープをゆっくりと啜っていた。

 熱いのか、最初の一口をすするまでに少しだけ息を吹きかけた。

 その仕草があまりに静かで、丁寧で、なぜだかわからないけれど胸が締めつけられた。

 話しかけるべきなんだろうか。でも、何を? この食事のこと? 天気のこと? やめたほうがいい。変なこと言って、今のこの感じを壊したくない。――いや、でも。

 そんなことばかりを、心の中でぐるぐる考えていた。

 僕は彼女の声を、さっき初めて聞いた。

 そのとき、ようやく「女の子だ」とわかった。見た目じゃわからなかった。

 水着も、帽子も、僕とまったく同じだった。数字が違うだけ――彼女は268、僕は314。

 それ以外は、同じ形、同じ色、同じ素材。肩の露出も、背中の開き方も、脚の露出も、すべてが、区別を拒んでいるかのようだった。

 いや、たぶん、周囲の誰を見てもそうだ。

 食堂の席にちらほら座っている他の参加者たち――その誰が男で、誰が女か、遠目ではわからない。痩せた体つきも、丸みのある肩も、逆に引き締まった腕も、この水着では隠されるどころか、どれも同じように露出され、同じように整えられてしまっている。


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