誘われた?
視線をどうすればいいかわからない。
目を合わせるのも、逆に逸らすのも、変な気がした。
「……シャワー、浴びなかったの?」
黙っていられず、そう言うと、彼女は少し笑ったような気がした。けれど表情は変わらず、静かな声で答えた。
「浴びたらさ、たぶん、やる気なくなっちゃう」
そう言って、ソファにもたれた。
冷たい水の雫が、ぽとりと床に落ちる音がした。
「きれいになると、もう戻りたくなくなっちゃう。だから、まだ」
その言葉が胸に染みた。
僕は、うなずくことしかできなかった。――ドキドキしたまま。
少しの沈黙があってから、彼女がぽつりと口を開いた。
「……私、ご飯まだなんだよね」
ソファにもたれたまま、視線を上げることなく、肩越しに投げかけられた言葉だった。
思わず、顔を向ける。
「食事、取りにいかない?」
その瞬間、心臓が跳ね上がった。
今のは、誘い? いま、僕、誘われた? いやいやいやいや、そんなわけない。これはただの食事、ただの、あの、栄養補給、エネルギー摂取、それだけ。でも、でも、いっしょに――?
「う、うん!」
間の抜けた返事をしてしまった自分を殴りたくなる。けれど彼女は気にする様子もなく、ぬれた水着のまますっと立ち上がった。
その背中を追いかけるように、僕も急いで立ち上がった。足がちょっともつれた。




