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足音

 そして、休憩のエリアに行った、ただ静かに、黒い水着と水泳帽を着た、疲弊した子どもたちの群れが、まるで重力に引かれるように、柔らかいソファの中で、静かに、そして深く沈んでいた。

言葉がないということは、こんなにも安らかで、そして同時に、こんなにも恐ろしいものなのだと──そのことに、この時の僕は、まだ、心の底から気づききれてはいなかった。

ソファの沈み込みに、身体の疲労が溶けていくのがわかった。

 水着はまだ冷たく、シャワーの湯気の名残が肌の奥に残っている。自分の鼓動が、ようやく落ち着き始めていた。濡れた髪を背もたれに預け、軽く目を閉じる。

 そのときだった。足音が近づいてきた。

 ソファの前で、その足音が止まる。

 ぴたり、と静寂が戻る。次の瞬間、小さな声がした。

 「……ここ、いい?」

 その声を聞いた瞬間、鼓動が跳ねた。

 高くて、澄んだ、どこか戸惑いを含んだ声だった。男じゃない。――女の子の声だ。

 目を開けると、そこには、自分とまったく同じ黒い水着と水泳帽を着た子が立っていた。

 パッと見では、性別なんてわからない。

 胸も、背中も、髪型も、誰もが番号しか持っていないこの大会で、それは当然のことだった。けれど、その声だけが決定的だった。

 「……え、あっ……うん! いいよ!」

 焦って返事をすると、自分の声が裏返った。顔が熱くなる。

 なにしてるんだ、と思っても、もう遅い。

 彼女は黙って、僕の隣に腰を下ろした。

 ソファがもう一度、沈む。距離が近い。身体が、すこし触れそうになる。

 肩にはまだ冷たい雨水が残っていて、雫がゆっくり腕を伝っていた。

 彼女は「268」、僕は「314」。それ以外は、同じ。

 水着も、水泳帽も、肌の露出も、全員ぴたりと揃っていて。

 ――でも、彼女の声は、違っていた。ただそれだけが、彼女の「女の子らしさ」のすべてだった。


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