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日焼け

最初に手をかけたのは、水泳帽だった。

 額の縁に指を滑らせると、ゴムの張力がじわじわと緩み、内側にこもっていた熱がほどけるように逃げていく。帽子が耳を離れ、頭頂からそっと外れていく瞬間、頭全体が一回り軽くなった気がした。湿った髪がばさりと落ちる音が、自分の中で意外なほど大きく響いた。

次に水着だ、指をかけ、肩のストラップをゆっくりとずらす。

 張りついていた布が、ぺり、と微かな音を立てて皮膚から剥がれた。わずかに冷たい空気が触れる。肩の輪郭が露わになる。

 その瞬間、日焼けの跡がはっきりと浮かび上がった。

 くっきりとした境界線――まるで、そこに何かの境界が「刻印」されたかのように。

 水着に覆われていた部分は、皮膚の色が一段も二段も明るく、それは逆に、露出していた肩や首筋がどれほど焼けていたかを強調した。朱に近い茶色と、陶器のように白い部分。その差は滑稽なほどに鮮やかで、まるで身体が自分の意思とは関係なく「この服を着せられていた時間」を証言しているかのようだった。

 見ていられなくて、目を逸らした。

 いや、正確には、見ないふりをした。

 これは自分の身体だ。なのに、なぜか少しだけ、違う誰かのもののように思えた。この水着を着せられ、この形に焼かれたのは「自分」だけれど、それはどこか、遠いものにも感じられた。

 腕を抜くと、脇の下まで焼けているのがわかる。もう何十時間、これを着たまま泳ぎ、走り、橋を渡ってきたのか思い出せない。ひとつひとつの動きが、日差しとともに皮膚の色を変えていった。そしてそれは今も、じんわりと熱を帯び、肌の奥で疼いていた。

 この水着の形が、そのまま身体に焼き付いている。

 まるで脱いだあとも、脱げていないかのように。

 けれど彼は、それ以上、何も言葉にできなかった。

 肩からずり下げられた水着の布は、だらりと腰まで落ちて、濡れたままの肌にひっかかっていた。そこからさらに、布を引き下ろしていく。太腿の中ほどで止まり、内側の布地が重たくまとわりつく。慎重に身体を折り曲げ、片足ずつ抜いていく。

 そのすべてが、重く、妙に遠い動作だった。

 皮膚の色が変わってしまったこと――それはつまり、自分の中の「普通」がもう、どこかへ行ってしまったということだった。


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