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シャワールーム

 まずは、シャワールームへ行こう。体を温めたい。

 その衝動は、ごく自然で、あまりにも人間的な欲求だった。


 通路の先には、ひっそりと静まり返った白い空間があった。

 一定の間隔で並ぶ扉。二十、三十、それ以上かもしれない。


 無機質な白色の扉が、壁に溶け込むように連なっていた。

 規則的で、整然としていて、どこか“冷却室”のような印象を受けた。


 その前を歩いていた一人の参加者が、ちょうど扉から出てきた。

 なにか白いものを、片手に握っていた。

 タオル——のように見えた。


 でも、それが“いけないこと”だとは、そのときの僕にはわからなかった。


 参加者は、水着を着ていた。水泳帽も、かぶっていた。

 ただ、タオルを手に持ったまま、通路を進もうとしたとき——

 もう一人の参加者と、すれ違った。

 いや、「参加者のように見える誰か」。

 同じ水着、同じ水泳帽、濡れた足元。

 見分けのつかないその人物が、無言でタオルに手を伸ばし、次いで水泳帽を外し——

 そのまま、連れ去った。


 何が起きたのか、最初は理解できなかった。

 僕はひとつの扉を選び、中へ入った。


 個室の中は、外とはまったく違っていた。

 あたたかい湿気。やわらかな照明。肌にまとわりつくようなぬくもり。

 張りつめていた神経が、すこしずつ溶けていくような錯覚に包まれた。


 そんな空間の一角に、白いパネルが掲示されていた。


 【シャワールーム利用者への規則】

 ・個室外では、必ず水着および水泳帽を着用してください。

  未着用の状態で個室を出た場合、即座にリタイアとみなされます。

 ・タオルは、シャワー個室内でのみ使用可能です。

  個室外への持ち出しは厳禁とし、確認された場合も即座にリタイアとなります。


 ──あのときの、タオル。

 頭の中で、一瞬で全てがつながった。

 あの参加者は、「持ち出した」のだ。個室の外へ。たったそれだけで。

 そして、“処理”された。


 ぞくりとした。

 恐怖は、規則の内容ではなく、その徹底の仕方にあった。

 僕らと同じ姿をした「誰か」が、すでに群れの中に紛れていて、違反を見つけた瞬間、迷いなく手を伸ばす。声も、警告も、同情もない。ただ、処理される。

 その瞬間から、このあたたかい個室の意味が変わった。


 ここでは、水着を脱いでいいのだろう。


 そう書かれてはいない。けれど、外に出たときに「着ていなければリタイア」──

 つまり、脱いでいいのは、この個室の中だけ。


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