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回数

 僕は何度か紙を入れる。

 十回ほど、川を渡ったと思う。


 ……いや、本当に十回だっただろうか?


 時計は持たされていない。時間の提示もない。

 川辺には、時刻を告げる鐘もなければ、陽射しの強さすら、一定の灰色に覆われていた。

 体内時計だけが頼りだが、それも、水に濡れ、風にさらされ、何度も渡るたびに、鈍く、狂っていく。


 あと何回渡ればいいのか。いや、そもそも「あと何回で終わる」のか。

 考えようとするたび、脳の奥に靄がかかる。


 代わりに、身体が勝手に動くようになる。

 橋を渡る。紙に書く。箱に入れる。また川へ戻る。

 ただ、それだけ。


 繰り返すうちに、頭がどこか遠くへ行ってしまう。

 まだ十回目なのに、記憶があいまいだった。

 「たぶん十回くらい」。

 でも、その「たぶん」に、自分自身がまったく確信を持てなかった。

 それが、妙に怖かった。


 さらに周回を重ねる。

 誰にも、その答えはわからない。

 「あと何時間で終わります」と、優しい声で告げてくれる人も、ここにはいない。

 そもそも、時間という概念そのものが、この無機質な空間では、まるで機能を停止してしまったかのようだった。

 時間を知るための時計はない。

 地面に落ちる影の角度も、いつの間にか見失ってしまった。

 容赦なく照りつける太陽が、今、空のどのあたりに位置しているのかさえ、僕の鈍くなり始めた意識は、正確に捉えることができなくなっていた。

 目の前にあるのは、ただ——


 冷たい「川」と、

 頼りない「橋」と、

 自分の存在を無機質な数字で示す「記録用紙」。


 それだけ。

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