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下賤の者に襲われたばっかりの私に配慮して、警備も強化し、リュカ様も一緒に邸に居る。そんな中で、リュカ様とレーヴェレンツ様の声が聞こえた。
「捕えた男達が死んだ」
「またか」
「毒類は検出されず」
え。私を襲った男達が死亡したの? 私がアレに蹴りを入れたからではないよね?
もしかして、人を殺してしまったかもと思うと体が震えた。
「王妃が関わっているのは間違いないのに!」
良かった。私が殺めたわけでは無さそう。
そう言えば、王妃に招待されてお城に行った時、そこまで気に留めなかったけど、前世のことで一つ思い出したことがある。お婆ちゃんから教わった事がある、あの花の木。
――ミフクラギの木。
薔薇の庭で迷ったときに、なんの偶然かグロウテントを見つけた。その中に一本だけあった、あの大きな木。
薔薇園を手入れしている庭師のお爺ちゃんに聞いたら王妃様が好きで植えて欲しいとお願いされたと言っていた。薔薇と違って華やかさは無いから意外だなって思った程度だった。ミフクラギの花の木には別名"自殺の木"とも呼ばれている。
ケルベリンというアルカロイドの配糖体で、胃が少し痛むなと思った後、嘔吐、眩暈、静かに昏睡し、心臓は動きを停める。これらのことが約十二時間以内で起きる。死後、体内からケルベリンを探知することが出来なかっため、かつては秘密の殺人兵器と言われていた。
「ミフクラギの木だわ」
ステラは居ても立ってもいられずに扉を叩いた。
<――コンコンコン>
「ステラですが、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうした?」
扉を開けて、リュカ様が顔を出した。
「話が聞こえてしまって」
「……聞いてしまったか」
「はい。――王宮の庭にある、ミフクラギの木を調べてください。あの木にはケルベリンというアルカロイドの配糖体を含んでいます。死後、体内からケルベリンを探知することが出来なかっため、かつては秘密の殺人兵器と言われていたのです。全体的に毒性があるので調べる際は気をつけてください」
「これも、前世の記憶からか?」
「はい」
まさか、また、前世の記憶が役に立つとは思わなかった。
私が話した通りにミフクラギの木に含まれるケルベリンについて急速に研究が進められ、遂に成果を出した。
事件性も配慮し、遠い国の技術を使い当時のままで保存されていた前王妃アシュリ・イヴァーノ・ファルシーニ様の体内からもケルベリンが検出された。そして、私を襲った男性からも同じケルベリンが検出された。国王様は、病死と発表しながらも、リュカ様と同じように真実を明らかにする日がくるのを求めていた。
17年の長い年月を掛けて事件の幕が閉じた。
王妃様は最後まで無実を主張していたが、言い逃れできない徹底的な物理証拠も出てきて、裁判の結果、王妃という立場から処刑は逃れたもの廃され、生涯幽閉となる事が決まった。
『終わったのね』
「知っていたのですか?」
『核心は無かったわ。何となく、気づいたの』
「何があったのか聞いてもいいですか?』
『珍しくお茶会に誘われたの。紅茶を飲んだとき、胃が少し痛むなと思ったら、……気づいたら幽霊なっていた。受け入れられなくてずっとここに居たわ。心残りは無いわ』
「うん」
『息子……リュカをよろしくね』
「うん」
『結婚式まで時間はあるかしら』
こればかりは解らない。
心残りが無くなった今、直ぐにでも天に行くことはできる。いや、残された時間も僅かかも知れない。
「アシュリお義母様と出逢って、お話ができて幸せでした」
『私もよ、ステラ』
今は事件の後処理で忙しく働いているリュカ様を含めて、騎士団も。ここ何日も顔を合わせた時間はほんの僅か。
元王妃の息子のエヴァン様は王族から籍を抜かれることになった。王族から籍を抜かれても貴族として、ファルシーニ王国の国王になることが決まったリュカ様を支える家臣のひとりとして忠誠を誓った。
ファルシーニ王国には、エヴァン様とリュカ様しか王位を継ぐ者は居ない。自然の流れで、リュカ様が王位を継ぐことになる。私が王妃になるなんて聞いていない。そして、私は今、王妃になる為に猛勉強中。王子妃の勉強はアシュリお義母様としていたからなんとか付いてはいけている。王子妃の勉強をしていて本当に良かった。飲み込みが早いと褒めてくれるけど、それは当たり前。アシュリお義母からも教わっているのだから。
私とリュカ様の結婚式まで後3ヶ月。
卒業後、直ぐに結婚式を挙げることになっている。結婚しても、直ぐに王妃になる事はない。王太子妃として経験を積み、初めて王妃になる。それまでは、政務や公務をこなしながら勉強していく。
「疲れていないか?」
「大丈夫です」
「俺の前では、今までのままのステラでいい」
「ふふふ」
「何が可笑しい」
「今のお顔も素敵です」
ちょっと捻くれた拗ねた顔も、どんなお顔も魅力的で素敵だなってステラは思った。
結婚式を前にして、事件は起きた。
「リュカと結婚するの私よ。私が王妃にふさわしいわ」
リュカ様が傷を負って真っ先に捨てたローラ様が突入してきた。
「今なら結婚してやってもいいわ。私にふさわしい」
どの口が言っているのよ。相応しいかどうか、貴女が決める事ではない。決めるのはリュカ様よ。
「ローラ様は、エヴァン様とご結婚されるのでは?」
「王にならない男なんて私には必要ないわ。ゴミよ」
いや、貴女の方がゴミよ。
〈粗大ゴミに捨てていいかしら〉
「何ですって! 誰がゴミよ」
「何のことでしょうか?」
「とぼける気ね! 貴女が言ったのよ」
「ごめんなさい。無意識に言ってしまったみたいです。資源ごみなんて言って悪かったわ」
「資源ごみなんて言ってないわよ! 粗大ゴミよ」
ぷっ、と、吐き出す声が聞こえた。
周りを見渡したら肩が揺れているお方達がいる。
そして、エヴァン様も声は出さずともお腹を抱えて笑いを堪えている。
更なるとんでもない爆弾発言が飛ぶ。
「ステラ様は、誰よりもリュカ王子殿下を、……あ、ああ愛しております! 何たって、落ちた髪の毛も集めるくらい、好きなんですからね」
私が隠していた事をミラが大勢の集まる視線の中で暴露した。静まり返る空気の中、声が響いた。
「……嫁が申し訳ありません」
エヴァン様は、ローラ様を引きずって、暴れるローラ様を肩に抱えて離れて行った。
リュカが何処に居たかと言うと、ステラの直ぐ後ろに居た。口を出さない方が良いと判断し、黙ってことの成り行きを見守っていた。
リュカは思った。喧嘩をする事はこの先無いと思うが、ステラには口喧嘩には敵わないと。それも良いかもとリュカは思った。
何か聞こえたが、聞こえなかったことにして胸の内に秘めた。気にするだけ無駄だとリュカは知っている。
私とリュカ様の御結婚後、エヴァン様とローラ様の離縁が成立した。
確かにあの騒ぎを起こしたら離婚はするよね。ローラ様は、修道院に入ることになったと聞いた。ローラ様のご家族がとっても厳しいところに送ったそうだ。
大人しくしていたら離婚なんて話はなっただろうに。見た目と違ってエヴァン様は誠実なお方である事を話しているうちに知った。見た目はチャラ男ぽいけど。
人は見かけによらぬものとは、エヴァン様のためにあるじゃないかと思う。
♢♦︎♢
【 ミフクラギの木 】
インドから東南アジアにかけて広く分布している。ちなみに、沖縄にもあります。常緑高木であり、有毒成分として強心配糖体類を含有している。
自殺に利用されることがあり、一部の地域では自殺の木と呼ばれている。本植物に関する法医学者らの認知率は低く、その有毒成分の分析法などは確立されていなかった。
1989-1999年の間に少なく見積もっても530人がこの種子で自殺したとされるが、生物試料からの検出法が確立されていないため、実際にはもっと多くの事件・事故があったと考えられる。
また他殺に利用されていた場合、犯罪死を見逃していた可能性が非常に高かった。本研究では各種質量分析計を用いて、種子、血液及び尿から強心配糖体類を検出できる分析方法を確立した。これによりオオミフクラギのような強心配糖体類を含有する植物による中毒事件・事故における迅速な鑑定・診断が可能となった。
沖縄にも分布しており、赤く熟した実がマンゴーと似ており間違えて食べて死亡した例もあるそうです。




