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「あんたがリュカの婚約者?」
いきなり話しかけられたかと思えば、あんた呼びって失礼な人ね。あんたこそ誰よ、名を名乗りなさいよ。と、言いたいけど此処は我慢して、にっこりと微笑む。
「私がリュカ殿下の婚約者ですが、何方様でしょうか?」
「俺のこと知らねえの?」
こいつがこの国の第一王子なの? こいつが王位を継ぐの? 真逆ね。立太子もまだ、国王様は決めかねているし、第一王子が此れじゃね、国王様も悩むわね。
ステラはにっこりと笑顔を絶やさないで微笑んでいる。
「第一王子エヴァン・イヴァーノ・ファルシーニだ」
「エヴァン王子殿下、お初にお目にかかります。――私、カメロン伯爵家の長女ステラ・カメロンと申します」
と、制服のスカートを裾を掴んでカーテシーをする。
良かったわ。アシュリお義母様に挨拶の仕方を教わっておいて、そうじゃなかったら私は善いけど、リュカ様の評価も下がってしまうところだった。
「挨拶は真面に出来るだな。――馬鹿だと聞いていたが」
元は挨拶も真面に出来なかったのは事実で、言い返すことが出来ないけど、言い方が癪に触る。気を悪くする言い方しか出来ないのか、この男と内心で毒を吐く。
「何故に? まだ、リュカの婚約者の座に居座っているんだ? 王家とそんなに繋がりが欲しいん?」
「――ハア?」
やば。思わず挑発的な言葉が出てしまったが、後戻りも、無かったことにも出来るはずも無く、取り繕うのをやめた。
「そんな事に興味はありませんわ。リュカ殿下が王家だらうと、無かろうと、私が好きになったリュカ殿下は、そんな所では御座いません」
リュカ様は、出会った瞬間から優しかった。
私の身なりを見て、状況を判断して、私を側に置くのは婚約者としてと言うよりはあの家に帰したら私が辛い思いをするからと保護を目的にした気持ちが強い。
綺麗な部屋を与え、温かくて美味しいご飯に三時のおやつ。空腹で倒れそうになることもない。今ではティータイムも一緒に取ってくれる。病的に痩せ細っていた私の身体は今は健康を取り戻して、肉もついて女性的な身体つきにもなってきた。包容力で親身になってくれた。感謝しかない。
騎士の時の顔つきは、男らしく圧倒的に強くてかっこいい。あの雄を感じさせる肉体は魅力的。あの、抱擁力のある逞しい腕に抱きしめられると安心する。まだ、抱きしめられたことないけど。そうよ、リュカ様は――。
「逞しい肉体は誰よりも魅力的でかっこいいですから!」
……あれ? 何か違うような……。違くはないけど。もちろん好きだけど。好きだけど。リュカ様の逞しい体躯が。それだと、リュカ様の体躯が好きと街の中で叫んだようなものでは――。
私の顔が熱を保って赤く染まっていく、冷静になると恥ずかしくなて血の気が引くのを感じた。
「――肉体ね、……にくたい」
「繰り返さなくてもいいから! 繰り返さないでください!!」
「にく、――ックク」
「記憶を消して、今すぐに!」
喉を押し殺したかのように笑うと、耐えきれなくなってか、アハハと口を開けて肩で息をするかのように笑う。
「はら、……イテッ――久しぶりに笑ったわ」
指で涙を掬い、まだ、笑うエヴァン王子殿下。
「忠告。――俺の母、……王妃には気をつけろ」
「どう言う意味――」
「じゃあ、な。ステラ嬢」
意味ありげな言葉だけを残して、エヴァン王子殿下は手を振って去っていた。
もしかして、そんなに悪いやつでは無いかも知れない。けど、好きにはなれない。
ほんの少しだけしか会話はしていないけど、初頭の警戒した瞳と違い、何か強い意志を保っている瞳をしていた。その意味を知ることになるのはもう少し先の話だった。
私のあの言葉は町中に広まっていた。第二王子の婚約者様は、肉体が好きと。異母妹の二の舞になってしまった。
「恥ずかしくて、外も歩けない」
「厭、此処、鍛錬所といえ外」
真面目に突っ込みを入れるルークに、ステラは聞こえないふりをして話を続ける。
「どうしよう。リュカ様に変態だと思われてしまった」
「今更だろう」
「違うもん。リュカ様の前では、ちゃんとしていたわ」
「……」
「疑っているでしょう!?」
「厭……、隠しているつもりでいるのに驚いている」
「どう言う意味?」
ルークは深いため息を吐いた。
ステラは知らないだけで、リュカも気づいてはいる。気づいてはいるけど何も指摘をしないだけ。そこがステラの良いところでもあると受け入れている。
知らないのはステラ本人だけ。
騎士団の団員も薄々ながら気づき始めているが、誰も何も言わない。
「そもそも何で、そんな話になったんだ」
「エヴァン王子殿下が、頭にくることを言ったからよ」
「第一王子に会ったのか」
「ええ、よくわからないけど、王妃には気をつけろと、仰って言った」
何となくだけ小声で話す。
第一王子エヴァン殿下に会った日に、リュカにもエヴァン王子殿下に会ったことを話した。同じように王妃には気をつけろと忠告されたことも話をした。何故? この国の王妃に一端の貴族令嬢でしかない私に気をつけろと忠告紛いなことを言うのか解らなくて理由を訊ねても答えは返って来なかった。
「危険なお方なの?」
「何かあれば、俺らも含めてステラ嬢のことは守るから安心しろ」
リュカ様と同じことを言う。何も教えてくれないのが不満に思う。
確かに王妃には良くない噂がある。
前王妃を亡き者にしたと、言われている。真実は定かでは無いけど、ことわざにこんな言葉がある。
―― 火のない所に煙は立たぬ。
事実がなければうわさも立たないはずで、うわさが立つのは、その原因となる事実があるはずであることをいう。
現王妃には隠された何があると言うこと。実の息子であるエヴァン王子殿下が忠告するくらいの何かが隠されている。
エヴァン王子殿下が、何処まで知っているかわからないけど、何か勘づいているのは確かなことで、リュカ様にとって敵か味方かはまだ判断は掴めかねる。
危ないことに足を突っ込む趣味は無いけど、前王妃アシュリお義母様の死の原因を掴む手がかりになるかも知らない。ステラは強く思った。
エヴァン王子殿下から忠告を受け、数週間後のこと、王妃から招待状が届いた。
招待状には、私一人の名前だけ。
私一人で来いと言う脅迫のようなもの。
リュカ様は応じる必要はないと仰ってくれたけど、此処で私の負けず嫌いが顔を出す。
「大丈夫です。私には心強い味方がたくさんいますので」
リュカ様も、レーヴェレンツ様も、騎士団の団員の皆様、ミラも、妖精たち。心強い味方が私の周りにはいる。
「リクも付いてきてくれるみたいです」
「王妃の前では妖精が視える話はしないように」
「わかったわ」
念を押すように何度も言われて、心配症なリュカ様に私は心の中で苦笑いをした。
そんなに何度も言わなくても良いのにと。
――耳に胼胝ができるわ。
今、私は王宮に来ている。
離宮とは違った華やかさがあり、手入れされた庭園は複数の薔薇が咲き見られている。
使用人がスコーンと紅茶をテーブルに乗せ、席を離れた。
『気をつけろよ、この女死臭くさい』
リクからの忠告。
(死が近いってことかしら)
『そんな、かわいいもんじゃねえ。この女から何人も殺めた臭いだ。くせえ』
(ひっ――! 怖いこと言わないで! 私、声に出していない)
『読もうと思えば読めるからな! すげえだろ』
エヴァン王子殿下といい、リュカ様も、王妃には気をつけるように忠告をする意味を私は知ることになった。妖精が放った言葉もそうだけど、身をもっても。
笑顔を貼り付けたような仮面のような顔に背筋が冷える感じがした。
「好きなように食べて良いのよ」
「有り難く頂きますわ」
威圧感が凄くて、物を喉を通る気がしない。
何を企んでいるだろうと考えるもの、読み取れない。
「リュカとは上手くいっているのかしら」
「お陰様で上手くいっておりますわ」
「ほら、あれでしょ?」
「あれとは、何のことでしょうか?」
「貴女、察しが悪いわね。見た目が悪いでしょ? 本当は嫌ではないかと、私、悲しくなってね」
「何処がでしょうか? リュカ殿下ほど、魅力的な殿方は私は知りませんわ」
「私の前では隠さなくても良いのよ」
「隠すも何も、私は本心しかおっしゃっておりません」
「嘘おっしゃい!!」
「嘘などついておりません。――誰もがも認める麗しいお方が居たとして、中身が備わっていないならただの美術品と変わりません。見る分に楽しめても、魅力は感じませんわ」
リュカ様の綺麗なお顔も好きだけど、何気ない優しさや己の事よりも他人を思いやる暖かい心に惹かれている。
私が好きになった彼はそばにいるだけで心が暖かい気持ちになる。
「貴女とは気が合いそうにありません」
「お互い様です」
私が肯定したら仲間に引き入る魂胆が見えた。
そこまで忌み嫌う理由がわからない。
……どうしよう。道に迷った。
啖呵を切って案内を断ったのはいいけど、迷った。
「グロウテント?」
中を覗いて見ると、白い花を咲かせた木が一本だけ立っていた。ここだけ何か異様さを感じさせる。
そこで、佇んで鋏を片手に手入れをしている庭師のお爺さん。
「あれは?」
白い花を咲かせた木の方を指す。
「王妃様が植えたものだよ、お嬢ちゃん」
そうなんだ。ああいう地味って言うか、華やかさが無いものも好きなんだ。珍しいな。
おっといけない。道に迷っていただった。
「――此処から出たいですけど、迷ってしまって」
「解り難いからね」
庭師のお爺さんに道を聞き、外に出ることができた。




