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リュカ殿下の隣りに知らない女性。一体、誰だろう、……ステラは首をかしげる。
「ステラ嬢の護衛兼侍女だ」
と、リュカ殿下が説明をした。
数日前の出来事をステラは思い出した。これって、もしかして、私が異母妹に手を挙げられたから? それにしても早くない? 一昨日の話だけど。
「ステラ・カメロンよ」
「ソブドシー伯爵家、ミラ・ソブドシーと申します。ステラ様、今後とも宜しくお願いします」
セミロングのオレンジ色の髪の毛の女性は私と同じ歳で女騎士団のひとりだとリュカ殿下は説明をしてくれた。すごい。強くて、かっこいい女性は私も憧れる。
主な仕事は侍女だけど、いざと言う時は彼女、ミラ・ソブドシーが護衛として私を守ってくれるらしい。
「ミラ、宜しくね」
「はい」
「同じ歳の友達がいないから、あの、……良かったら友達になってくれないかしら」
ひとりが好きでボチをしているわけではない。友達ができないからしょうがなくボチをしているだけで、できればお友達になりたい。
「友達ですか……」
やっぱりダメなのかな。そうよね、雇われている身としては友達という関係は難しいのかも知れない。貴族って身分は面倒臭い。
「ステラ嬢の頼みを聞いてくれないか」
リュカ殿下が助け舟を出してくれた。
「私で良ければ」
「ぜひ! お友達第一号だわ。ずっとボチかと思っていたからとっても嬉しいわ」
ステラはミラの手を両手で包み微笑む。
事前にミラは、ステラのことをリュカから聞いてはいた。
少し変わった令嬢だが、気にしないで欲しいと。
フレンドリーに話す令嬢を、ミラは今までに出会ったことはなかった。少し驚いたもの特に気にすることもなくステラの侍女兼護衛として過ごして知ることになる。少しどころでは無く途轍もなく変わっている令嬢だって事に。
王立学院が休みの時は相変わらず、騎士団に昼食を持って通っている。リュカとお昼を摂るのはステラの楽しみのひとつ。
9月とはいえ、まだ昼間暑く腕まくりをしてるリュカにうっとりステラは眺めている。
いつもはお昼ギリギリに来るステラだったが、今日はリュカの騎士団の姿を見たくて早めに来ていたステラ。
「見て、見てください! リュカ殿下の腕橈骨筋が……腕の筋肉、……美、……もっと他にも見せてくれないかしら。――腹直筋、腹斜筋……! 大胸筋も捨てがたい! 脱いで欲しい」
ミラはこの時に確信した。
殿下が仰っていたのはこの事だと。
貴族令嬢の口から聞いてはいけない……聞くことがない言葉がずらりと並んでいた。
何のことは全くわからないけど、筋肉ってことは解った。筋肉に名詞が付いている事もミラは初めて知った。
その他は全く何を言っているのか解らなかったけど……。
「ステラ様は、筋肉がお好きなのですか?」
「筋肉は芸術よ、美しい筋肉を作るのは並大抵の努力では出来ないわ」
ステラ様の瞳から筋肉への情熱の愛を感じる。
「ミラは何処の筋肉がお好きで?」
「……ちょっと、筋肉のことは詳しくは……すみません」
「謝る必要はないわ。私こそごめんなさいね。ほら、私ってボチだったでしょ? お友達と女子会みたいに話す機会がなくて、興奮したの」
と、ステラ様は笑った。
殿下がステラ様を気にかける理由が解った気がした。
真っ直ぐに嘘偽りなく御自分の気持ちを伝えるステラ様を好意的に想ってらっしゃる。
噂とは真逆で、とっても素晴らしい女性と数日過ごして解った。
ステラ様も殿下を想っていらしゃるし、お似合いのふたりだと思う。
「お昼よ。リュカ殿下を迎えに行きましょう」
「はい、ステラ様」
殿下と一緒にいるときのステラ様は恋する女の子の顔をしていて可愛らしいと思う。
「私が作ってみただけど……ちゃんと、シェフに教えて貰いながら作ったから味の方は、たぶん、大丈夫だと思うのだけど」
「ステラ嬢の、手作り」
「嫌だった?」
「いや、嬉しいよ。婚約者からの贈り物は」
「よかったです」
✳︎ ✳︎
王立学院で未だにミラ以外に話し相手はできないでいる。
ちらちらと見て、話しかけるタイミングを図ってるようだけど知らないふりをして本を読んでいる。
私から話しかけるつもりは無い。最初に私のことを除け者にしたのは彼女らの方で、私は始めは友達になれるように努力をしようとした。この中で一番身分が高いわけでも無いし、学院は身分関係なく平等を謳っている。
ステラは、短い休憩中は静かに本を読んでいることが多い。
友達作りを諦めてからというもの、王立図書館で本を借りて来て、休憩時間や家でも暇さえあれば読んでいる。元々、読書も好きってこともあり、読み始めると時間を忘れて没頭してしまう癖があった。
現世で読んでいたような悪役令嬢物の話は流石に無いが、シンデレラストーリーの話はある。
御伽噺に出てくるような甘い話ではなく、教訓のようなもの。グリム童話に出てくるよう話で、内容がなかなかに暗い。精神的に遣られる。私は好きな分類に入るけど、読む人を選ぶ内容だと思う。
何事も起こる事も無く、時間だけが過ぎ去っていき、放課後。
ステラは、帰りの支度をする。
アンジェラが暴行を犯し、邸で騒ぎを起こし、騎士団に連行されてからステラの学院生活も変化しつつある。
今までステラをいない者と扱い、話しかけても聞こえないふりをして、ぞんざいに扱っていたのが仇になり、話しかけられない状況でいる。
ステラから話しかけてくれるのを持っている感じ取れるが、気づかないふりをして敢えて行動をしない。
「ステラ様のこと気になさっていましたね」
「そうかしら?」
「こちらを気に掛けおりました」
「気になるのでしたら話しかければ宜しいですのに」
「仰る通りです」
人間とは厄介な生き物でもある。
自分にとって、プラスになるか、マイナスになるかで動く生き物である。現在を生きる私たちにも言える。背負う者が大きくなる程、損得で考えてしまうではないか。自分一人だけの問題でも無くなるし、共に働いてる仲間やその家族にも影響が出てくる。
貴族社会は食うか食われるか。マイナスになるような人物と親しくなるのは避けたいのも解らないわけでも無い。噂に踊られすぎだと思うけど。
「あ、……あの!」
「何でしょうか?」
「何も知らずにステラ様を……避けて、申し訳ありません」
「気にはしていないですわ」
手が小刻みに震えている。緊張していることが直ぐに解った。
「本当に気にしていないのよ。貴女はこうして謝ることができた。素晴らしいとことだと私は思います。――お名前を尋ねてもいいかしら?」
「はい、わたし……私子爵家の二女フレイ・ニコリと申します」
「覚えておくわ。フレイ様。宜しくね」
「はい!」
ステラは初めの友達が出来る予感がして心躍った。
「友達が出来る予感がするわ」
「ふふ、良かったですね」
「ええ」
嬉しそうに笑うステラの姿を見て、ミラの頭の中で過ったのは、尻尾を振ってリュカに報告してるステラの姿だった。
ミラは心の中でクスッと笑う。
♢♦︎♢
【 おまけ 】
「レーヴェレンツ様、私の話を聞いてくれませんか?」
「一体、何があったんだ?」
「ステラ様に筋肉がどうのこうの語られたですけど、半分も理解が出来ませんでした」
「ステラ嬢のことは半分は受け流してもいい。――俺なんて、友人のこの角度の一番美しいとか、腕の血管がどうのこうのって話されただぜ? そこまでじっくり見てねえ……」
ミラとルークはため息を零した。
ステラがリュカ殿下の筋肉の美について語っている時、リュカは身がブルッと震えたとかいなかったとか。




