第85話:遺跡の門と黒衣の案内人
鋼と炎がぶつかり合う激しい音が、遺跡の前に響き渡る。
サクラと魔人あいおー――両者の力は、まさに拮抗していた。
あいおーの炎を纏った拳が唸りを上げて放たれるが、サクラは漆黒の鎧で正面から受け止める。
吹き飛ばされることなく、その場に踏みとどまるサクラに、あいおーが興味深そうに笑った。
「いいねぇ、その鎧。なかなか壊れねぇじゃねぇか……」
「お前の拳が貧弱なだけだろう」
バチッ、と雷光が迸る。
サクラの剣が一閃し、あいおーの胴に傷が走る。
「ははっ……いいねぇ、ますます燃えてきた!」
炎と雷が激しく交差し、戦場を照らす。
その衝撃で周囲の岩が砕け、地面が揺れた。
あいおーは飛び退き、地を蹴って再びサクラに拳を突き出す。
その一撃を、サクラは剣で受け止めながらも体勢を崩さず、反撃の斬撃を返した。
「こんなもんか、魔人。力押しだけでは、俺は倒せんぞ」
雷が弾け、あいおーの頬をかすめる。
魔人は楽しそうに笑い、両手を振り上げて地面を砕いた。
その破片がサクラに襲い掛かるが、鎧の力で跳ね返す。
「この硬さ……チートじみてやがる……! だがな!」
あいおーが突進し、拳を連打。
サクラは剣と盾を巧みに操り、数撃を凌ぎながらも、一瞬の隙に鋭い斬撃を叩き込む。
赤黒い血が散った。
「ふん……ようやく当たったか」
あいおーが笑いながら後退する。
「悪くねぇ……もっと遊ぼうぜ、黒騎士!」
* * *
その激戦を見守る仲間たち。
「すげぇ……あれだけの攻撃を受けて、まだ動けるのかよ」
とライアンが驚きの声を漏らす。
「一人で戦うというだけあるわね……動きに一切の無駄がない」
とリセルも目を見張る。
「お見事です……固い鎧はもちろん、剣技も職人技」
とDaiが息を呑みながら呟く。
「ほう……あの突進を正面から受けるとは。見事だな、鉄壁の男……」
と焼大人もうなる。
コルクもワンと一声、何かを感じ取ったように鳴いた。
誰もがサクラの技量と防御力に圧倒され、感嘆の声を上げていた。
だが――
「……ダメ。あれじゃ……勝てない」
その戦いを見つめていたエリナが、小さく呟いた。
その声を、リクが聞き逃さなかった。
「……え?」
エリナは焦った様子で言葉を続ける。
「あの鎧も剣技も凄いけど、あいおーはまだ全然……力を出し切ってない」
「まさか……」
ライアンが絶句する。
「GEAR・TWOになっても、まだ……エネルギーを溜めてるような感じ。あの魔人……恐ろしい」
リセルも唇を噛みしめ、視線をサクラに戻した。
「じゃあ、どうすれば……」
エリナは目を細め、遺跡の奥を見つめる。
その瞳に、一筋の決意が宿った。
「リク……お願い。今のうちに、遺跡の中に行こう」
「え?」
「わからない。でも、あの奥には……何かがある。何か、私たちを助ける“力”が」
リクは迷った。
だが、エリナの瞳に宿る確信に似た光に心を動かされ、頷いた。
「わかった。行こう!」
仲間たちも頷き、遺跡の中へと駆け出した。
* * *
冷たい空気が漂う遺跡内部。
リクたちが進むと、奥に続く通路が見えてくる。
その両脇には、厳しい表情の兵士たちが立っていた。
「これ以上先へは行けません。女王陛下が中におられます」
「待ってくれ! 俺たちは協力者だ。 女王陛下にも会ったことがある! 女王より特命調査任務を拝命しているんだぞ!」
リクが懸命に訴えるが、兵士は首を横に振る。
「申し訳ありません。いかなる理由があろうと、今は通せません」
「ふざけるな! このままだと外は……!」
ライアンが一歩前に出るが、兵士たちは剣に手をかけた。
「やめて! 私たち、戦いに来たんじゃない!」
リセルが割って入るが、兵士たちの表情は変わらない。
エリナが焦りをにじませながら前へ出る。
「お願い……私たちは、王国を救いたいの。あなたたちと同じ気持ちよ」
「それでも、命令です。お引き取りを」
リクたちは言葉を尽くし、何度も頼み込む。
だが兵士たちは微動だにしない。
そのとき、騒がしい押し問答の気配に反応して、奥の闇からひとつの影が現れた。
「……よく来てくれましたね」
静かに、しかしどこか安堵のこもった声が通路に響く。
変わらず黒い装束を纏い歩み出たのは――リリィだった。
「「「リリィ……!」」」
リク、エリナ、ライアンが目を見開く。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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