第84話:漆黒の鎧
大地が震える。赤黒い魔力の奔流が、あいおーの身体から噴き上がった。
「――GEAR・TWO、解放ォ……」
爆発のような衝撃が広がり、全員がその場で膝をついた。
魔人の肉体がさらに膨れ上がり、肌は灼熱の金属のように赤黒く輝き、炎のオーラが剥き出しで暴れまわる。
「ぐっ……何だ、この圧……!」
ライアンが歯を食いしばる。
あいおーの気配は一瞬にして別次元へと跳ね上がり、そこにいるだけで意識が焼かれるような、絶対的な“力の差”を全身で感じさせた。
リクたちは全員、思わず言葉を失い――次の瞬間、理屈ではない“恐怖”に呑まれていく。
「く……体が……動かない……!」
リクの額から冷や汗が滴る。
拳を握ろうとしても、力が入らない。
「なにこれ……っ。頭が、真っ白に……」
エリナもまた、息をするのも苦しいほどの威圧感に押し潰されかけていた。
リクたちの身体が、ぴたりと硬直する。
理屈ではない。身体が拒絶していた。
圧倒的な"力の格"の違いを、本能が理解してしまったのだ。
空気が重い。
呼吸すらできない。
「な、なんだこれは……!」
「動けねえ……!」
焼大人やライアンですら、戦意が削がれる。
その中で、エリナはひとつ、異なる感覚に囚われていた。
(……呼ばれてる?)
彼女の意識の奥で、微かな“声”が響いた。
(あの遺跡に……行けば、また何かが……)
理由は分からない。
ただ本能が、あの遺跡の奥に進めと訴えている。
だが、足は震え、まったく動かなかった。
その時だった。
遺跡の石扉が、ゆっくりと開かれる音が響いた。
「……遅れて、すまない」
静かな声が、競技場に響いた。
「……報告を受けて急いで戻って来たら、……随分と暴れてくれてるな」
低く、静かな声が風に乗って届く。
遺跡の奥から姿を現したのは、漆黒の鎧に身を包んだ長身の男――漆黒の鎧騎士団の団長サクラだった。
その視線が、あいおーへと向く。
「おまえ……強そうだなァ」
魔人が楽しげに声をかける。
だが、サクラはあいおーを一瞥するだけで、無言のままリクたちへ目を向けた。
「君たちは下がれ。ここから先は俺がやる」
リクが苦しげに顔を上げた。
「なっ、でも、一人では……!」
「下がれと言っている。」
その冷たい声音に、リクも言葉を失った。
そして次に、サクラは自らの部下たちへ視線を向ける。
「お前たちもだ。全員、後退しろ」
命令を受けた漆黒の鎧騎士団の隊員たちは、一様に目を見開く。
「しかし団長……!」
「命令違反をする気か?」
凍てつくような一言に、誰もが黙り込んだ。
サクラはゆっくりと腰の剣を抜く。
その刀身に沿って、青白い雷が走る。
「……ゼイン、そして俺の部下たち……お前が壊したものの代償を払わせてもらう」
サクラが剣をゆっくりと構える。
その剣が一層バチバチと電気を帯び、周囲の空気が痺れるように変化した。
「王国始まって以来の天才と言われた、Fum技長の試作品……」
剣を目の前に突き立てるように掲げ、サクラは低く叫んだ。
「――メタライズ!!」
その瞬間、眩い雷光と共に、強化された鎧がサクラの身体を包んでいく。
まるで意志を持つかのように装着されていく漆黒の魔装。
そのシルエットは一騎当千の戦士そのものだった。
「おもしれぇ……」
あいおーがにやりと笑う。
「そう簡単には壊れなそうな、いいおもちゃが出てきたじゃねぇか……!」
“怒り”と“不動”がぶつかり合う気配の中、新たな戦いが始まろうとしていた――。
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