第83話:炎の巨圧
轟音が響き渡る中、憤怒の魔人あいおー”は、忌まわしい笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。
「クク……どうやら、少しは楽しめそうだな。……どこまでついてこれるか試してやる。最後まで潰れるなよ!」
その身体が、じりじりと膨れ上がっていく。
筋肉が膨張し、体格はさらに一回り、二回りも巨大化する。
肌は灼熱のように赤く染まり、全身から立ちのぼる熱気が地面を歪ませた。
リクたちが思わず息を呑む。
「GEAR・ONE……解放ォッ!!」
魔人の体格がさらに巨大化し、筋肉が膨れ上がっていく。
まるで鎧のように変質した筋繊維が皮膚の下に浮き出し、熱気が肌を刺すように周囲へ放たれた。
その巨躯を包むように、赤く揺らめく炎のオーラが現れた。
まるで体内から業火が噴き出しているようだ。
「出たか……“GEAR”ッ!!」
焼大人が目を見開き、驚き、叫ぶ。
「知っているのか?!焼大人!」
リクは叫ぶ。
焼大人が拳を握りしめながら、深く頷いた。
「“GEAR”とは古代大陸・烈火州にて鍛え上げられた戦闘術『熾火五輪式』の中核――」
突然、周囲がざわめいた。
誰もが緊張感に包まれている中、焼大人の独演が始まった。
「その第一段階“GEAR・ONE”とは、筋肉の繊維一本一本を自在に制御することで、人体を炎熱装甲へと変化させる技術ッ! これはかつて民民書房刊『爆熱の構造学』にて詳しく解説されているッ!」
「……本気を出してきたか!」
リクが歯を食いしばる。
直後、空気を切り裂くような轟音と共に、あいおーの巨体が眼前に迫り、その拳が地を割る勢いで振り下ろされる。
「危ない!」
「下がって!」
リセルが叫ぶと同時に、エリナが炎の壁を張って迎撃する。
しかし、その防御を突き破るように拳が炎を貫いた。
「ぐっ……!」
リク、ライアン、焼大人、Daiがそれぞれ全力で迎え撃つが、GEAR・ONE状態のあいおーのパワーとスピードは、明らかに先ほどまでの比ではなかった。
リクが斬撃で牽制し、焼大人が拳で受け止め、ライアンがカバーに入り、Daiが横から魔具を投げて撹乱する。
連携している、全員が出し惜しみのない本気だ。
だが――それでも、じわじわと押されていく。
「やべぇ……完全に力負けしてる……」
ライアンの呻き声が漏れる。
「焼大人さん、後ろ気を付けて!」
「承知ッ!」
焼大人がゾンビペンギンの群れを蹴散らしながら、あいおーの拳に食らいつく。
だが、受け止めたはずの拳の衝撃が伝わり、体が弾かれた。
「なんて戦いだ……」
その光景を、遠巻きに見ていた漆黒の鎧騎士団の隊員たちが息を呑む。
「彼らがやられてしまったら……」
状況に怯えが騎士団を支配する。
そんな中、漆黒の鎧騎士団の一人が叫ぶ。
「何をしている! 援護に入るぞ!」
「団長が戻るまで、時間を稼ぐんだ! たとえ自分の命を差し出しても、あの者たちをやらせるわけにはいかない……!」
その言葉に、各隊員はハッとする。
彼らは互いに目配せをし、決意の表情を浮かべ、一斉に戦場へ駆け出した。
「援護しますッ!」
ひとりの隊員が剣を抜いた。
隊員があいおーの背後へ回り込み、魔人の注意を逸らすよう動き始めた。
「無謀だ!」
と叫ぶDaiの声を振り切って、騎士たちは果敢に突撃する。
だが、彼我の力の差は歴然だった。
あいおーの炎を纏った拳が一閃し、騎士たちの盾をまとめて吹き飛ばす。
「ぐああっ!」
「くそっ……でも、まだだ!」
「それでも構わん! 一瞬でも隙を作れれば、それでいいんだッ!」
散っていく仲間の姿を見ても、彼らは止まらない。
自らを楯にして、あいおーの攻撃を少しでも逸らそうと前に出る。
その姿に、リセルが歯を食いしばる。
「……本当に、みんな……!」
エリナの目にも、静かな炎が灯る。
だが、あいおーは鬱陶しそうに肩を回し、ぽつりと呟いた。
「ちっ……面倒になってきたなァ」
あいおーが不満そうに舌打ちした。
「GEAR・ONEでこの程度か。なら、一気に片付けてやらァ……!」
魔人の気配が再び膨れ上がる。
次なる段階、“GEAR・TWO”が、今まさに解放されようとしていた。
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