第82話:炎鎖の共鳴、一矢報いる瞬間
競技場跡地に響く怒声が、空気を震わせた。
「おお……少しは、俺の怒りを受け止められそうなのが来たなァ!!」
魔人“憤怒のあいおー”が血走った目をぎょろりと剥き、リクたちを睨みつける。
その巨体は地を踏みしめるたびに地面を揺らし、ただそこに立っているだけで、異様な威圧感が全身に突き刺さる。
「来るぞ……!」
リクが構えを取る間もなく、あいおーの拳が閃光のように振るわれた。
最初の標的は、焼大人。
「ふっ、拳には拳で応えるまで――ッ!」
勢いよく踏み出し、真っ向から拳をぶつけに行ったその瞬間、あいおーの一撃が直撃する。
焼大人は空中で派手に回転しながら、瓦礫の山へと突っ込んだ。
「うぐっ……さすがだな」
土煙の中から小さく唸る声が聞こえた。
次の標的は、しんがりを務めていたDaiと、その足元にいたコルク。
迫る拳にDaiが素早く魔具で結界を張るも、凶暴な力の前には脆すぎた。
二人は一緒に壁へ叩きつけられ、コルクの悲鳴にも似た鳴き声が響く。
「Daiさんっ! コルク!」
エリナが叫んだときには、もうあいおーの視線がこちらに向いていた。
「な……っ」
エリナが魔力を展開しようとするより早く、リクとライアンが動いた。
「エリナ、下がれ!」
「二人を守れッ!」
二人はふたりの少女の前に立ちはだかるが、あいおーの拳はその意志ごと貫いた。
衝撃でリク、ライアン、エリナ、リセルの四人は一斉に吹き飛び、地面を転がりながら瓦礫にぶつかる。
「がはっ……!」
唸るような呻き声が辺りに広がった。
その様子に、あいおーが肩をすくめて笑う。
「なんだ、期待外れかァ?……つまんねえのォ」
再び腕を振り上げる。
その殺意は先ほどよりも明確で、まるでここで全てを終わらせるかのようだった。
「これで終わりだァ!!」
だがその瞬間、4つの影が交差する。
「ぐうっ……!」
焼大人、リク、ライアン、Dai――それぞれが傷を負いながらも、立ち上がって拳を四方から受け止める。
「――ここで終わるわけにはいかない!」
「まだ……誰も諦めちゃいねぇんだよッ!!」
4人の力が交錯し、あいおーの腕がわずかに止まる。
その刹那。
「今だよっ!」
リセルが地面に膝をついて弓を構え、狙い澄ました一矢を放つ。
ズドン――!
鋭い音と共に、あいおーの膝が崩れ、巨体がたまらず片膝を地に着く。
「ちっ……!」
リクが叫ぶように振り向いた。
「エリナ!」
エリナが頷き、両手を組んで魔力を解放する。
赤く燃え盛る鎖が空間に編まれ、唸りを上げて放たれる。
「“紅炎の戒め(フレイム・シャックル)”――ッ!!」
紅蓮の鎖があいおーの胸部に巻き付き、火の奔流が肉体を焼き裂く。
「ぬおおおおおおっ!!」
魔人の口から、初めて苦悶の叫びが漏れた。
鎖を千切ろうとする腕が揺らぎ、焦げた皮膚から黒煙が立ち昇る。
「ふはっ……なるほどなァ。ちっとは、やるじゃねぇか……!!」
満足げに笑いながらも、その余裕にほんのわずかな好戦的な色が滲む。
その様子を、近くで戦っていた漆黒の鎧騎士団の隊員たちが呆然と見つめていた。
「おい……今、膝をつかせたか? あの魔人を……!」
「まさか……ダメージが通った? そんな馬鹿な……」
「いったい何者なんだ、あの連中は……!」
騎士団の一人が震える声で呟くと、隣の戦友が微かに笑んだ。
「わからんが……もしかしたら……本当に倒せるかもしれない……」
「だがまだ終わっちゃいない……団長が戻るまで、俺たちは退かんぞ!」
「……ああ、援軍が来てくれただけでも、助かった」
隊員たちは互いに背中を預けながら、必死に戦線を維持していた。
リクたちは荒い息をつきながら、構えを解かずに次の一手を探る。
彼らは魔人の恐ろしさを知っている。
ダメージが通ったからといって油断はできない。
戦いは、ようやく互いにとって“本当の始まり”を告げようとしていた。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」




