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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第80話:迫る怒り、立てこもる光

 酒と樽の香りが漂う静かな空間に、足音が重なった。


 リクたちは《Dai’s》の一角にある個室に通され、円卓を囲んで腰を下ろす。

 エリナは足元のコルクを撫で、リセルは緊張した面持ちで壁の地図を眺めていた。


 ワインの注がれる音が静かに響き、Daiが口を開く。


 「……では、お話いたしましょう。皆さまがここにいらした目的は、王都の現状と、女王陛下のご所在についてでございますね」


 「はい。陛下の安否、そして彼女が今どこにいるか、何かご存じですか?」


 リクの問いに、Daiは深く頷いた。


 「情報を取り扱う者として、この場でお伝えすべき内容がございます。……数時間前に入手した報せをご覧にいれましょう」


 Daiは魔導具のひとつ――通信魔導具の一種である“共鳴水晶”を取り出し、軽く魔力を注ぐ。

 中に封じられていた映像の記録が、机上に淡く再生された。


 そこに映っていたのは、崩れた城壁の前で王国民を必死に誘導する女王の姿。


 「……これは……っ」


 ライアンが息を呑むように呟いた。

 そこに映っていたのは、誰よりも先頭に立ち、命を賭して民を導く女王の姿だった。

 彼女たちは混乱の中で人々に的確な指示を出し、王都外へと続く道を切り開いていた。


 「陛下は城壁崩壊後もその場に留まり、混乱の中にあった民を安全な経路へと導かれていたようです」


 Daiの穏やかな語り口とは裏腹に、一同の表情が引き締まる。


 「その後、漆黒の鎧騎士団が合流し、一定の戦力を確保されましたが……敵の包囲は予想を上回る速度で進行し、やむなく旧市街にあるかつての競技場跡地――王都の栄光を象徴していた大円形闘技場の地下区画へと退避したようです。


 あの場所は今では廃墟と化しておりますが、地下構造は堅牢で、短期間の籠城には適していると判断されたのでしょう。しかし、そこは逃げ場も限られた閉所。長くはもちません」


 遺跡――それは以前、リクたちが記憶に違和感を覚えた、あの場所だった。


 「その場所、覚えてる……あのときの……」


 エリナがぽつりと呟き、リクも静かに頷く。


 「そして、厄介な報せもある」


 Daiがわずかに表情を曇らせた。


 「……ひとつ、看過できぬ報せがございます。魔人“憤怒のあいおー”が女王陛下を標的に動いているとの情報が入っております。今回はどうやら、民の心の支えとなっている存在を破壊することが、彼にとって格好の“遊び”になると考えたようです」


 「……女王陛下が、そんな……」


 エリナの声が震える傍らで、足元のコルクがリクの膝に鼻先を擦り寄せてきた。

 くりくりとした瞳が「撫でて」とでも言うように見上げている。

 リセルが思わず笑いかけるが、その表情もすぐに真剣なものに戻る。


 緊張感のただよう場にあっても、コルクは空気を和らげようとするかのように、リクたちの間を小さく行ったり来たりしていた。


 エリナの声が震える。


 Daiはグラスを置き、柔らかな笑みのままリクたちを見つめた。


 「皆さまにお願いしたいのは、女王陛下の避難支援と合流、そして必要であれば競技場跡地からの脱出のご助力です。……そして、僭越ながら、私も同行させていただきます。元は傭兵、いざという時は多少の剣も振れますので」


 Daiはゆっくりと立ち上がり、ジャケットの裾をさっと払って身なりを整えた。


 「ここでグラスを磨いているだけでは、もはや時勢に逆らえません。酒場を守るには、まず世界が続いていなければならないので」


 リクは拳を握りしめ、深く息を吸い込んだ。


 「俺たちにできることは限られてる。でも……少しでも近くで支えたい。陛下があの場所から脱出できるよう、道をつくるんだ」


 炎のような決意が、静かに卓上を照らす蝋燭の灯に重なっていた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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