第76話:希望を繋ぐために
「……どうする?」
静寂が落ちた室内で、リクが静かに口を開いた。
目の前には、読み終えた新聞が数枚、机の上に広がっている。
王都陥落、ゼインの戦死、女王の生死不明――
冷たい活字が突きつける現実は、あまりにも重い。
それでも、誰も俯かなかった。
リクはまっすぐ前を向いたまま、答えを求めるように仲間たちを見回す。
「まずは、ロビンと合流だ」
その問いに、ユリウスが力強く答えた。
「王都近郊の森に、防衛拠点を築いているなら、そこを目指す。 俺たちが向かえば、戦力にもなる。 紅蓮の盾の生き残りを再編して、ロビンと共に王都奪還の足掛かりにする」
その目には、かつての仲間を守れなかった悔しさと、今度こそ守るという決意が燃えていた。
「放っておける状況じゃない。まだ抵抗できる勢力が残っているうちに……巻き返すしかない」
ライアンの言葉もまた、重く、真っ直ぐだった。
エリナも、そっと目を伏せてから小さく頷く。
「……私たちが行けば、少しでも……力になれるかもしれない」
震える気持ちを押し込めるように、慎重に言葉を選ぶ。
言葉にすることで、胸の奥にあった不安が、少しだけ軽くなった。
そして、それは皆にとっても同じだった。
やがて、誰からともなく目を合わせ、互いに頷き合う。
口には出さずとも、仲間たちの決意は、静かに、しかし確かにひとつに重なっていた。
* * *
と、その時。
「おーい、戻ったぞー!」
外から聞き慣れた声が響き、同時に軽快な足音が近づいてくる。
リクたちが振り返ると、MGRが納屋の方から現れた。
しかし、その姿を見ると奇妙な光景が広がっていた。
風に乗って、無数の羽毛が宙を舞っている。
「……なんだ、あれ……?」
リセルがぽつりと呟き、ライアンが眉をひそめた。
「その羽はどうしたんです……?」
「納屋に行ったら外も含めて一帯が羽だらけで、俺も不思議に思ってるとこなんだ」
MGRは首をかしげながら、羽毛の舞う農道を見やった。
「納屋の中には、あいつしかいなかったんだよ。でも、見ての通りの羽の量だ。まるで何羽も暴れたみたいでな」
「何か、あったんですか?」
リクが警戒するように一歩前に出る。
「いや……今のところ、異常はなさそうだ。へいへいは元気だし、怪我もしてない。いつも通りおとなしかった。ただ、こうも羽が抜けるのは……なんとも妙だな」
「……ひとまず様子見、って感じですね」
ライアンが肩をすくめた。
MGRも苦笑を浮かべて、話題を切り替えた。
「まあ、気にしても仕方ないな。さて、それより……ザナリアンはどうだった? 食ったか?」
その問いに、リクが真っすぐな瞳で応えた。
「はい。すっごくおいしかったです」
その言葉に、MGRの顔がぱっと綻ぶ。
「そうか、そりゃあよかった! やっぱり食ってみりゃわかるもんだろ?」
「はい、クセはあるけど……ねっとり甘くて、なんというか……初恋の後味、って感じ?」
リクが照れ臭そうに笑うと、ライアンがすかさず突っ込んだ。
「ちょっと待て、初恋ってこんなに匂うか……?」
「ふふっ……」
エリナがくすっと笑い、リセルも口元を押さえた。
重い空気の中に、ほんのひととき柔らかなぬくもりが灯った。
「でも、本当に……ごちそうさまでした」
エリナが深くお辞儀をする。
「ありがとう、MGRさん。おかげで元気が出ました」
「はは、それは何より」
MGRは少しだけ誇らしげに胸を張ると、しかしすぐにリクたちの真剣な表情に目を細めた。
「……もう、行くのか?」
「ああ。王都の外で、希望を繋ごうとしてる仲間がいる。俺たちも、そこに加わらなきゃならない」
リクの声には、揺るがぬ覚悟があった。
MGRはしばし黙って彼らを見つめたのち、静かに頷く。
「そうか……。じゃあ、気をつけて行け。あの森の道は、時々風が変わる。進むべき道を見誤ることもある。でもな――お前たちなら、きっとたどり着ける。そう信じてるよ」
その言葉に、エリナが微笑んだ。
「今度は、ザナリアンを“買いに”来ます。すごくおいしかったから……お金を払ってでも、また食べたいです」
「ははっ、歓迎するよ。そのときは、もっと熟れたやつを出してやる」
MGRは優しい笑みを浮かべ、そっと手を振る。
リクたちは一礼し、背中を向ける。
風が、森の奥から吹き抜けた。
その先には、きっと試練と戦いが待っている。
だが――彼らの足取りには、もう迷いはなかった。
* * *
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