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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第75話:新聞を読もう 続き

 リクたちは黙って、震える指で次のページをめくった。

 そこには、真実を突きつけるように並ぶ見出しと、それに続く詳細な記事が詰まっていた。


 『シーユキ女王、生死不明』


 王都中枢への急襲により、女王宮は壊滅的被害を受けた。

 生存者によれば、女王シーユキは突入の混乱の中、最後まで国民の避難誘導を行っていたという。

 しかしその後の行方は不明であり、現在まで安否は確認されていない――。


 「……シーユキ様が……?」


 エリナが震える声で呟いた。


 リクも思わず手を止め、紙面を見つめる。


 「女王が……どうか、無事でいてくれ……」


 シーユキ女王のことを、彼らはただの統治者としてではなく、“人”として尊敬していた。

 リクの脳裏に、王都での穏やかな語らいの時間がよぎる。


 ページの下には、続くようにさらなる報せがあった。


 『蒼天の剣 騎士団長ゼイン、不意を突かれ戦死』


 東門を防衛していた蒼天の剣騎士団長・ゼインが、魔人の先行部隊により急襲を受け、戦死した。

 確認された敵は“七つの大罪”のひとり、憤怒の魔人と見られる。

 ゼイン団長は最後まで前線に立ち続け、部下の避難を指揮した後、敵の攻撃を一身に受けて倒れたという。


 「ゼインが……死んだ……?」


 リクの声がかすれた。


 「うそ……この前、王都で一緒に戦ったのに……!」


 エリナが口元を手で押さえながら、目を潤ませる。

 色欲の魔人との戦い――あの場にいたゼインの毅然とした姿が、昨日のことのように思い出された。


 「……くそっ……! ゼインが……やられるなんて……どれだけの敵だったっていうんだ……!」


 ライアンが椅子を乱暴に押しのけて立ち上がり、悔しさを押し殺すように天を仰いだ。


 そして――


 『紅蓮の盾、遠征中に壊滅――王都防衛に穴』


 テルマ村方面への派遣任務に就いていた紅蓮の盾の精鋭部隊が、王都防衛戦には参加できず。

 王都に残った騎士団が守りきれずに潰走し、防衛線が崩壊したとの情報が入っている。


 「紅蓮の盾が……」


 ユリウスが、かすれた声で言葉を漏らす。


 「……王都に残っていた騎士たちは、俺の仲間だ。 それなのに……俺たちは、王都を離れていた……!」


 「でも、それは女王の命令だったじゃないか」


 リクが言う。


 「……ああ、分かってる。俺たちは“嫉妬の魔人”を討伐した。女王のために、国のために成果を上げた――でも……それでも……俺が王都にいれば、守れた命が……あったかもしれない……!」


 その肩は、小さく震えていた。

 団長としての責任、仲間を想う心――そのすべてがユリウスを締めつけていた。


 続いて、紙面の下段に目を移す。


 『白銀の矢、ロビン団長が生存兵集め防衛隊結成』


 混乱の中、生き延びた騎士たち――白銀の矢をはじめ、他の騎士団の一部残存兵もロビン団長のもとに集結。

 王都近郊の森林地帯に簡易な防衛拠点を築き、避難民の保護と王都奪還に向けた再編成を進めているという。

 現在は、周辺の冒険者や義勇兵も加勢しはじめ、“第二の防衛線”として小規模ながら機能し始めているとのこと。


 「ロビン団長って……女性の騎士団長だったよね?」


 エリナが記事を見つめながら、静かに尋ねる。


 「そうだ」


 リクが頷いた。


 「王都で一度だけ会った。 ゼインさんと並ぶ実力者だよ」


 ユリウスが口を開いた。


 「ロビンは遠距離戦術の達人だ。 状況把握や部隊の立て直しも早い。 王都陥落の混乱の中で防衛線を築けたのは、あいつだったからこそだ」


 「……でも、すぐには反撃できないよな」


 ライアンの声は冷静だったが、その奥に悔しさが滲んでいた。


 「王都があれだけの戦力を揃えていても落とされたんだ。 小規模な再編成だけでどうにかなる相手じゃない」


 誰もがその現実を否応なく受け入れるしかなかった。

 拠点は確かに希望だ。

 けれど、それは「逆襲」ではなく、「絶望の中に残された小さな灯火」――。


 「……それでも、ロビン団長が生きていてくれて、よかった」


 リクの声は低く、しかしはっきりとしていた。


 それは希望ではなく、「諦めていない人間が、まだそこにいる」という事実への共鳴だった。


 エリナがそっと頷き、ライアンも腕を組みながら沈黙する。

 ユリウスの視線もまた、新聞の行間の先にある王都の空を見つめているようだった。


 そして――

 最後に、最も不可解な記事が目に飛び込んできた。


 『漆黒の鎧、戦線から姿を消す――離反か、撤退か』


 西側防衛を担当していた漆黒の鎧騎士団は、侵攻初期には確かに交戦の記録が残っていたものの、

その後の行動は一切不明となっている。


 一部の生存者の証言によれば、


 「ある時を境に、指揮官ごと姿を消した」

 「誰にも何も伝えず、忽然といなくなった」


 ――という。


 現在、離反・壊滅・潜伏といった複数の見解が飛び交っており、情報は錯綜している状態だ。


 「……あの“漆黒の鎧”が……いなくなった、だと……?」


 リセルが、信じられないというように呟いた。


 「奴らは……沈黙と忠誠の騎士団だぞ。 軽々しく動く連中じゃない……これは、ただの撤退じゃない気がする」


 ライアンが重い声で言った。


 場に、再び沈黙が落ちる。


* * *


 王国は、いまや瀕死だった。


 象徴であるシーユキ女王は行方不明。

 ゼインは討たれ、騎士団の多くは壊滅し、魔人たちは未だに王都に居座っている。

 一部は奮戦を続けているが、戦況は絶望的だった。


 だが、そのとき――


 「……でも、まだ……全部が終わったわけじゃない」


 静かに、しかしはっきりと。

 リクが口を開いた。


 「国が壊されても、俺たちの“心”まで壊されちゃいけない。 ゼインさんや……女王様の想いは、まだ消えてない。 それを――俺たちが繋がなきゃいけないんだ。 だから……進もう。また、守るために」


 誰よりも若く、誰よりも無名だったはずの少年の声に――

 不思議なほどの説得力が宿っていた。


 「リク……」


 ユリウスが、ゆっくりと目を閉じて頷いた。


 「……ああ。立て直す。俺たちで……必ずな」


 そのとき、リクはふと空を見上げるようにして、声を上げた。


 「……リリィ。もし聞こえてたら、応答してくれ!」


 静寂が降りる。

 風が吹き抜けるだけで、返事はなかった。


 「……やっぱり、そうか」


 リクの表情がわずかに陰る。


 「リリィが応答しないなんて……よほどの事態が起きたに違いない」


 誰もが、同じ思いで顔を見合わせた。


 それは、女王の身に本当に何かあったか、あるいは――

 王都の通信網そのものが破壊された可能性を意味していた。


 それでも、リクは拳を握り、前を向く。


 「それでも、俺たちは進む。王都を……未来を、諦めないために」


 それは、絶望の中にともる小さな炎だった。

 だが、確かにその場にいた全員の胸に、灯ったのだった。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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