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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第74話:新聞を読もう

 「……よし、行くぞ」


 リクは皿の上に鎮座する、ゴツゴツした実――ザナリアンを前に深く息を吸った。


 鼻を近づけると、強烈な匂いが鼻腔を突き抜ける。

 まるで熟成させすぎたチーズと、発酵した果実が混ざり合ったような……。


 「うっ……けど、行くって言ったしな……」


 意を決して、リクはひとくち齧った。


 「……ん?」


 果肉は驚くほど柔らかく、舌にのせた瞬間、濃厚な甘みが広がる。

 苦みやクセも確かにあるが、それ以上に――クセになる。


 「……うまい。クセはあるけど、うまいぞこれ……!」


 「えっ、本当に?」


 ライアンが目を丸くしながら、自分の分を手に取る。


 「うおっ、くっさ! でも……え、うまっ……これ、なんかクセになるんだけど」


 「香りがなければ……高級スイーツだな」


 ユリウスも慎重に口に運び、驚いたように呟く。


 「……正直、初めて食べたけど……意外とアリかも」


 リセルも口元を押さえながらも、どこか嬉しそうに頷いている。


 そしてエリナは、リクの皿から小さく切り分けて食べると――


 「わ……これ、なんか、すごく懐かしい感じがする」


 「懐かしい?」


 リクが少し驚いて問い返す。


 エリナは、舌の上に残る余韻を確かめるように目を閉じた。


 「……うまく言えないけど……忘れてた何かを思い出しそうな、そんな感じ」


 リクもまた、ザナリアンの味をもう一度噛みしめるように口に含み、静かに頷いた。


 「……なんか、昔、こういうのを誰かと食べたことがあったような……そんな気がするな」


 言葉にできない、でも確かに胸の奥に引っかかるような懐かしさ。

 二人にはその理由を知る術もなかったが、心だけがそれを覚えていた。


 「クセがあるのに、なんか忘れられない味だな……」


 「そう……クセがあるのに、また食べたくなる。不思議」


 「……おまえら、急に詩人みたいになってない?」


 ライアンが口をもぐもぐさせながらツッコミを入れる。


 「似合わないこと言うと、ザナリアンの匂いが倍になるぞ」


 リセルが茶化すと、全員がどっと笑い出した。


 ザナリアンの風変わりな味も、仲間たちとの穏やかな時間の中で、不思議と愛おしいものに変わっていた――。


* * *


 ふと、ユリウスが部屋の隅に積まれた新聞の束に目を留めた。


 「これは……?」


 「新聞?」


 リクが手に取り、上にあった一部を広げてみる。


 「……『くにあつ経済新聞』だってさ」


 パリッとした紙面をめくると、大きな見出しが目に飛び込んできた。


 『いちご泥棒、経済界へ――新興企業“らふま”の代表に』


 「……えっ!? あの、いちご泥棒!?」


 エリナが思わず声を上げ、ライアンも椅子から半分立ち上がる。


 「うそだろ……あいつ、社長になってたのかよ!?」


 リクも信じられないように記事に目を通す。

 そこには、いちご泥棒社長のインタビューが掲載されていた。


 曰く――

 フリーマーケット「らふ天らふま」の仲介システムを開発。

 これにより、店舗では買い取ってもらえない素材や道具を、冒険者同士で融通し合うことが可能になった。

 冒険者の間では、この仕組みが急速に広まりつつあるという。


 さらに、今後は「らふ天」経済圏を構築し、サービスの利便性と信頼性を高めていく意気込みが語られていた。


 「やるじゃねぇか、いちご泥棒……じゃなくて、“社長さん”か」


 ライアンが新聞を覗き込みながら、肩をすくめる。


 「泥棒って……元は犯罪者なのか?」


 ユリウスが眉をひそめる。


 「あ、いや、ちょっと違うんだ」


 リクが説明する。


 「いちご泥棒ってのは謎の冒険者で、一部では有名な奴でさ。レアモンスター“らふくま”の毛を刈ることに執念を燃やしてた変わり者だったんだ。どうやら“らふくま”は世界に一体しかようで、最後は……エリナを守って死んでしまった。……そのせいで毛が手に入らなくなり、冒険者業は廃業のようなものだったんだが、こうして成功したことに驚いたよ」


 「なるほど……すごいやつだな」


 ユリウスがぽつりと呟く。


 「……あのいちご泥棒が、らふくまの毛刈り以外のことをするなんてね」


 エリナが感慨深げに呟くと、ライアンも「人生、何があるかわからんもんだな」としみじみとした声で頷いた。


* * *


 だが、その直後。


 「こ、これは……!」


 ライアンが別の紙面を手に取り、息を飲む。


 リクとエリナが身を寄せて覗き込む。


 『けんた新聞 第63号』

 『七つの大罪の憤怒と暴食の魔人、王都を同時侵攻――王都陥落か』


 「なっ……!?」


 一瞬で、場の空気が張り詰めた。


 「そんな……王都が……?」


 エリナが手を口元に当て、震える声で呟く。


 「嘘だろ……!」


 ライアンが目を見開き、新聞の文字を凝視する。


 そのときだった。


 「……王都が、陥落……だと……!?」


 ユリウスが、立ち上がりざまに低く唸るように呟いた。

 手に取った新聞を震える指でしっかりと握り締める。


 「女王陛下は……国民たちは……そして王都に残った紅蓮の盾の騎士団は……!」


 肩を強張らせ、唇を噛み締める。

 その表情からは、団長としての責任感と、王国を想う気持ちがにじみ出ていた。


 「ユリウス……」


 リクが静かに声をかけるが、言葉はすぐに続かなかった。

 王都――この国の心臓部が、いま危機に瀕している。

 新聞の活字を追いながら、リクの拳にも力がこもる。


 (王都で……何が起きているんだ……!?)


 彼らの知らぬところで、世界は確実に――音もなく変貌し始めていた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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