幕間【PENPENZ】5:へいへい無双。アヒッルは見た!
テルマ村からどうにか逃げ延びたPENPENZたちは、ようやく森を抜け、広場のような場所でへたり込んでいた。
「はぁ……はぁ……助かったな、兄ちゃん……」
「噴火に地震に……最後は花子のおもらしまであって、大混乱だったな……」
「……生きてるだけで、丸儲けってやつだな……」
兄弟たちは地面に座り込み、疲れ切った体を寄せ合ってため息をついていた。
そのとき――
「……なんだ、あれ……?」
次郎が木陰の先を指さした。
そこには、一羽のニワトリが悠然と立っていた。
羽を一切動かさず、じっとこちらを見ている。
「……あいつ……“へいへい”じゃねぇか?」
太郎が目を細めて言う。
「へいへい……って、あの……?」
「そう。昔から話しかけても絶対に返事しねぇ、“動物界いちツンなニワトリ”。」
「くそ、いつも高飛車なツラしやがって……」
「今日は1羽だけじゃねぇか……チャンスだろ、兄弟」
「よし、仕返ししてやるか……!」
* * *
「おい、へいへい……元気か?」
太郎が近づいて話しかけるが、へいへいはじっと無表情。
「聞こえてるよな? 無視か?」
次郎が挑発的に言っても、へいへいはぴくりとも動かない。
「ちょっとくらい反応しろよ!」
三郎が羽でペチペチとへいへいの脇を叩くが、無反応。
「まじムカつくわ、このツラ……」
良子が横からつぶやく。
「いっつも澄ました顔しやがって……!」
花子までじれて、羽で小突き始める。
「……へいへいって名前のくせに、へーい!って言ってみろよ!」
「コケとかコーとか言ってみなって!」
「……こいつ、心あるのか……?」
全員で羽やら足やらで軽くぺちぺち突いていた、そのとき――
「コケコッコーーーーーーーーーーッ!!!!」
突然、空気を裂くような大音量の咆哮が響いた。
「ひいぃぃぃぃッ!!?」
PENPENZ全員、その場に転がるように尻餅をつき、ビリビリと震える。
「な、なんなんだよ! いきなり大声出すなってば!」
「……あれ、やばくね?」
花子が指さした先に、空からも地からも、ニワトリ、ニワトリ、ニワトリ――!
四方八方から、羽音を立てて大量のニワトリたちがこちらに突進してくる!
「こ、これは……へいへいのファンクラブ軍団!?」
「いや、討伐軍だろこれ!!」
「ちょ、ちょっと待って! 昔、緑の帽子の無口な剣士がニワトリにちょっかい出して、こうなったって噂、ほんとだったのかよ……!」
「うっそ……! そんなの都市伝説だと思ってたのにぃいい!」
バサッバサッ! 怒りの鶏たちがPENPENZに殺到し、容赦なくついばんでくる!
「お、おれたち、そんな悪気は――」
「あっ! あそこ! 兄ちゃんっ!撮ってるやついるっ!!」
その声に反応して、全員が木の影に視線を向ける。
そこには、にやりと笑みを浮かべながらスマート魔導具で撮影しているアヒルの姿。
「あれ……アヒッルじゃねぇか!!」
「くそっ、あいつ絶対“バズらせるぞ〜”とか言ってんぞ……!」
「俺たちの黒歴史、切り抜かれて一生晒されるやつだ……!!」
太郎が、震える声で吐き捨てる。
「おいアヒッル!!……人の不幸で笑ってんじゃねぇええええッ!!」
その絶叫とともに、群がるニワトリ軍団がPENPENZに総攻撃を仕掛ける!
「PENPENZ、全員撤退ーーーーーーッ!!!!」
太郎の号令を合図に、兄弟たちはバタバタと羽をばたつかせ、情けなくも猛ダッシュで逃げていった――!
後方から迫るニワトリの群れ。
そして、木陰からアヒッルが手を振っていた。
「ぬ、ぬわああああああ!!」
「ご、ごめんなさいっ!! ハート1つは残してぇぇぇぇ!!」
全員が絶叫しながら、朝の光射す森の奥へと消えていった――。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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