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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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第1話:新たな世界での始まり

 澄み渡る空に、幾筋もの白い雲がゆったりと流れていく。

 その先には連なる山々が、まるで大地を支える柱のようにそびえ立ち、山肌の稜線は柔らかな陽光に照らされて美しく浮かび上がっていた。


 ふもとの丘を越えた先に、小さな村がひっそりと広がっている。

 そこは地図にも載らないような辺境の集落。けれど、自然と共に生きる人々の暮らしには、喧騒とは無縁の豊かさがあった。

 鳥が鳴き、風が草原を駆け、子どもたちの笑い声が風と混ざり合う。そんな穏やかな日々が、まるで永遠に続くように思える場所だった。


 この村で暮らす一人の少年――名をリクという。

 漆黒の髪に、青く澄んだ瞳。まだ十五の若さながら、村人たちの間ではちょっとした有名人だ。

 真面目で、心根は優しく、いつも人のために動こうとする性格。そして何より、彼には並外れた“剣の才”があった。


 その才能は、天賦のものか、それとも日々の鍛錬の賜物か。

 おそらく両方だろう。毎朝欠かさず木剣を振り、雨の日も風の日も一人で稽古を続ける姿は、村の誰もが知っていた。


* * *


 ある日の朝、村の広場でリクはいつものように木剣を振っていた。

 地面に打ち込まれた丸太を相手に、正確に、そして迷いなく振り下ろされる剣筋。その姿は少年というより、戦場を知る兵士のようでもあった。


 「リク、今日も訓練か?」


 背後からかけられた声に、リクは手を止めて振り返った。

 そこに立っていたのは、父のガイルだった。

 がっしりとした体格に無精髭。深く刻まれた眉間の皺には、村の安全を守ってきた年輪が表れている。村では誰よりも頼られる存在であり、狩りや魔物避けでは常に最前線に立つ“守り手”だ。


 「うん。もっと強くなりたいんだ。いつか、この村を守れるくらいにね」


 リクの目は真っ直ぐだった。その言葉に嘘はなく、ただ純粋な願いと決意が込められていた。

 剣を振るのは自己満足のためではない。大切な人たちの日常を、笑顔を、守りたい。それだけが彼の原動力だった。


 「その意気だ」


 ガイルは満足げに頷きつつも、目元を少しだけ引き締めて言葉を続ける。


 「だが、覚えておけ。力だけがすべてではない。剣術とは己の心を映すもの。怒りや驕りに任せて振るえば、いずれその刃は自分を傷つける。心を鍛えることも忘れるな」


 「分かってるよ。でも……それでも、もっと強くなりたいんだ。なんでだろ……ずっと前から、そう感じてるんだ」


 リクはふと、自分でも説明のつかない“何か”を感じた。

 それは懐かしいような、けれど記憶には存在しないような、不思議な感覚。

 ――まるで、誰かを待っているような。何かを、ずっと探しているような。


 「ふむ……まぁ、そう思うなら、やれるところまでやってみることだ」


 ガイルは息子の肩をぽんと叩くと、広場を後にした。


 「鍛錬は嘘をつかん。お前の努力が、いつか誰かを救う日も来るかもしれんからな」


* * *


 ひとり残ったリクは、木剣を手に再び丸太に向き直る。

 剣を振るたびに、空気が裂ける音が響き、汗が額を伝う。


 ふと、剣を止めて空を仰いだ。

 青く広がる空。雲が流れ、風が吹き抜ける。


 「……焦ってるわけじゃない。でも……何かが、始まる気がするんだ」


 リクは無意識にそう呟いた。

 自分でも意味は分からない。ただ、胸の奥に、見えない歯車がゆっくりと回り始めているような感覚があった。

 この平穏な日常が、いつか終わる日が来る――そんな予感めいたものが、心のどこかをざわつかせていた。


 風が吹き、草原がざわめいた。

 それは、どこか遠い場所から届いた微かな“呼び声”のようにも思えた。

 リクの知らない、しかし決して無関係ではない、運命のはじまりの音だった。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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