表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/198

第51話:斬風、影を裂いて

 灼熱を孕んだ火山風が断崖を打ち据え、岩肌を軋ませる。

 舞い上がった灰は厚い雲のように空を覆い、あたり一面を鈍色に沈めていた。

 その只中、灰の渦を挟んで向かい合う二つの影――ライアンと、異国の侍装束を纏った男・momonosuke。


 互いの武器はすでに抜かれている。

 ライアンの両手には分厚い鋼の大剣。

 その刀身は幾多の戦いを物語る傷で覆われ、今もなお鈍い光を反射していた。

 一方のmomonosukeが握るのは、背丈に迫るほどの大太刀。

 その刃は漆黒の空気を切り裂くように静かに輝き、持ち主の異様な気配と一体化していた。


 火山灰のざわめきに混じり、互いの吐息が荒々しく響く。

 空気そのものが鋭く張り詰め、ひと振りで命を散らす緊張が場を支配していた。


 ライアンが、唇を固く結んで低く言葉を吐いた。


 「お前らがやろうとしてるのは……ただの虐殺だ」


 一瞬の沈黙。

 舞い散る灰が二人の間を遮る。

 momonosukeはわずかに口角を上げると、乾いた声で返した。


 「そう思うか。なら、それが正しいんだろうよ……少なくともお前の中ではな」


 ライアンは剣を握る手に力を込める。


 「魔人に与してまでやることかよ。お前だって、無事じゃ済まねぇ」


 「わかってるさ」


 momonosukeの声音は、感情の起伏を欠いた冷たい風のようだった。


 「それでも構わねぇ。俺はな……世直しがしたいんじゃねぇ。俺を、俺たちを喰い物にしてきた奴らに、報いを返したいだけだ」


 その言葉に、ライアンの眉間に皺が寄る。

 灰の向こうから射抜くような眼光が返される。


 「生まれて間もなく売られた。異国の地で“奴隷”となり、肌の色が違うだけで見世物にされ、穢れ物のように扱われた。踏まれ、焼かれ、嘲られて……」


 低く紡がれる声は、灰の風よりもなお重く、深い。


 「誰も助けなかった。見て見ぬふりをしただけだ。……お前も、きっとそのうちの一人だろう」


 ライアンは大剣を構え直し、一歩前へ踏み込む。

 その瞳には怒りと憐憫が入り混じっていた。


 「……だからって、人を巻き込んでいい理由にはならねぇ」


 「理由なんざ、初めから求めちゃいねぇよ」


 momonosukeは大太刀を肩に担ぎ直し、唇の端を歪めた。


 「復讐だ。そいつが、俺の全てだ。だから――魔人の力を借りる。あいつらを動かせば、世界中を炎で包める。それで十分だ」


 「裏十三夜の連中だって、目的はバラバラだ。正義なんかじゃねぇ。ただ……俺たちは“あの災厄”を利用して、自分の望みを叶える。それだけだ」


 「当然だが……命を捨てる覚悟はできてる。生きて帰れるなんて、最初から思っちゃいねぇ」


 ライアンの拳が震える。

 怒りと、抑えきれない悲しみが混じった声で吠える。


 「……てめぇ、それでも人間かよ。復讐のために世界を焼く? 最低だな」


 「人間? そんなもの、とうに捨てた」


 momonosukeの瞳が冷たく笑う。


 「お前らが守ろうとする“世界”は、俺たちを棄てた。だったら俺もその世界ごと叩き斬る――それだけの話だ」


 ライアンの怒声が断崖に響き渡った。


 「黙れッ!!」


 大剣が地を砕き、火花を散らしながら振り上げられる。


 「その過去を背負ってるなら……なおさら今を壊すんじゃねぇ!」


 灰の嵐が吹き上がる瞬間、ライアンが地を蹴った。


 鋼の大剣が火山灰を裂き、雷鳴のような轟音を伴って迫る。


 momonosukeは一瞬だけ目を細め、身体をわずかに沈めた。

 刃が頬を掠める寸前、紙一重でかわす。

 同時に反撃――大太刀が横薙ぎに閃き、風を切り裂いた。


 ガァンッ!!


 鋼と鋼が正面から衝突し、火花が夜空へと弾け飛ぶ。

 金属音が断崖を震わせ、火山灰が爆ぜるように舞い上がった。


 「……ッ、重い……!」


 反動に押されてライアンが後退する。

 momonosukeも静かに体勢を立て直し、刃先をライアンに向けた。


 「怒りに任せた剣じゃ、俺は止まらねぇぞ」


 「上等だ……それでも、止めなきゃならねぇ時がある!」


 断崖を吹き抜ける風が一層激しさを増す。

 灰色の嵐の中で、二人の影が再び交錯した。


 その戦いは、まだ始まったばかりだった――。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ