第50話:裏十三夜、胎動
森の中に集った黒装束の影。
タケダ、くらしょう、地雷嫌、momonosuke――そして、戦装束に身を包んだ芳坊が、焚き火の光の中に並び立つ。
リクたちは目を疑った。
「あの不審者たちと……どうして芳坊さんが一緒に……?」
エリナが困惑と恐怖の入り混じった声でつぶやく。
「まさか……裏切ってたのか……?」
ライアンが剣の柄に手をかけた。
「「「・・・・」」」
「クク……もう正体を隠す時期でもないだろ、芳坊さんよ」
くらしょうがニヤリと笑う。
「計画は仕上げ目前。今さら取り繕う必要なんてねぇ。裏十三夜の“影首”がここまで村に溶け込んでたなんてな……ご苦労なこった」
その言葉に、一瞬、空気が凍りつく。
「裏十三夜……?」
リクたちはその名に聞き覚えがなかった。
だが、続く言葉がすべてを覆す。
「お前たち、俺たちが村に張った仕掛けの意味、ようやく気づいたんだろ?」
momonosukeが静かに口を開く。
「でも、もう遅い」
「結界は完成に近い。村人たちの“嫉妬と疑念”を媒介にして――魔人はこの地に肉体を得る」
地雷嫌の声は淡々としていた。
「止めたきゃ止めてみろ。もうカウントダウンは始まってんだよ」
くらしょうが挑発するように言う。
リセルが一歩踏み出す。
「芳坊……どうして……。この村を大切にしてくれてたんじゃなかったの……?」
芳坊はゆっくりと目を開けた。
「リセル……私はこの村に根を下ろして生きてきた。だからこそ、この村を“器”に選んだのだ」
「そんな……っ」
「バレてしまっては仕方がない。人知れず実行したかったが」
芳坊の声には感情の起伏はなかった。
「芳坊さん! まだやり直せる! このままじゃ村が……!」
リクが叫ぶ。
「もう遅い。仕掛けの起動まで、残された時間はわずかだ」
芳坊は淡々と告げる。
「結界が完成すれば、村全体が“嫉妬”に覆われる。そして――魔人が、この地に現れる」
「くそっ……もう始める気か!」
ユリウスが即座に剣を抜いた。
「止めろ! お前たちのやろうとしていることは――!」
「行くぞ、お前たち。悲願達成の幕を開ける時だ」
芳坊の一言と共に、タケダが前に出る。
「構わずいくぞ。仕掛けを起動させるのが先だ」
「おうよ!」
くらしょうが印を組むと、濃霧が場を覆い始めた。
地雷嫌は札を撒き、魔力の痕跡を遮断する。
「待て、逃がすな!」
リクが叫ぶが、霧の中で敵影は四方に散っていた。
「リセル!」
リクの声を背に、リセルは怒りと悲しみに突き動かされるまま、ひとり駆け出す。
「リセルを一人にさせるわけにはいかない……!」
エリナもすぐに後を追った。
「あいつは俺が行く。でかい武器だ、他の奴じゃ相性が悪い」
ライアンは短く言い残し、momonosukeの姿を追って走り出す。
「お前たちは村の警護にまわれ! 俺は侍を追う!」
ユリウスが部下たちに短く指示を出し、刀を抜いて駆けていく。
リクは最後に残り、焚き火の向こうに立つ芳坊を見据えた。
そして、ゆっくりと剣を構える。
「……芳坊さん。止まるつもりは、本当にないんですか?」
「もう止まれぬ。私は、この村の破滅の先にこそ“救い”があると信じている」
「救いなんて、誰も望んでない!」
リクの斬撃が閃き、芳坊の錫杖と正面から激突した。
ギィィンッ! と金属が擦れ合う甲高い音が夜気を裂き、火花が四散する。
その瞬間――村を揺るがす決戦の火蓋が、ついに切って落とされた。
* * *
――南の断崖付近:momonosuke vs ライアン
霧の中から現れた大柄な影に、ライアンは迷いなく剣を振るう。
鋭い一閃が風を裂き、前を走っていた敵の背を狙う。
巨大な大太刀が、まるで音もなくその攻撃を受け流した。
「ほう……振り返る前に斬りかかってくるとはな。気に入ったぜ」
敵はゆっくりと振り向き、刀を構える。
巨大な大太刀が月光を反射し、刃先が蒼白に光る。
その影はゆっくりと振り向き、鋭い眼光でライアンを射抜いた。
「……俺はmomonosuke。“裏十三夜”の外使だ」
「……ライアン。王都の冒険者だ」
剣を構え直し、睨み合いが始まる。
* * *
――温泉地帯:くらしょう&地雷嫌 vs エリナ&リセル
霧を裂いて放たれた矢が、くらしょうの足元へ突き刺さる。
足を止めた彼に向かって、リセルが二射目を構える。
「ふざけた口叩くな……!」
「おっと危ねぇ。歓迎の矢ってやつか?」
くらしょうが軽く笑うと、隣で地雷嫌が即座に札を散らし、風の結界を展開する。
そこへ、エリナが駆けつけた。
「リセル! 感情だけで飛び出すなんて……危なすぎるわ!」
険しい声で叱責するエリナに、リセルが肩を落とす。
「ご、ごめん……でも、どうしても許せなくて……」
「わかる。でも今は冷静に。二人で、確実に止めるわよ」
エリナが優しく言い直し、リセルが頷いた。
「うん……一緒に止めよう、エリナ」
ふたりは横に並び、敵の前に立ちふさがる。
「……見えたわ」
エリナが魔力を集中し、杖を前に出す。
「私はエリナ。あなたたちが何者でも、ここは通さない!」
「深淵の牙――くらしょう」
「口寄せの術師――地雷嫌」
四人の視線が交差し、戦闘の幕が上がる。
* * *
――寺の裏手:タケダ vs ユリウス
刀を抜いて霧を裂き、ユリウスが全速で斬りかかる。
その刃を、タケダは鞘に入れたままの刀でいなし、軽く距離を取った。
「俺の相手は王国の名を背負う男か」
「貴様は……なるほどな……あの時ただ者ではないと思ったが、やはり芳坊の仲間か」
タケダは静かに構え直す。
「タケダ。裏十三夜、“武断”を預かる者だ」
ユリウスも剣を構え直し、鋭い視線を返す。
「ユリウス。王国騎士団《紅蓮の盾》の団長だ」
静かな決意とともに、ふたりの剣がぶつかり合う時が来た。
* * *
「読んでくださって本当にありがとうございます。
ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」




