表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/198

第47話:揺らぐ心、忍び寄る影

 テルマ村に到着してから数日が過ぎた。

 表面上は人々が日常を取り戻しているように見える。

 畑を耕す者、川で水を汲む者、子どもの声も時折響いてはいる。

 だが、その声色や笑顔の端々にはどこか影が差していた。

 村に流れる空気は、見えない膜に包まれているように重苦しく、よそよそしい気配が肌を刺す。

 日を追うごとに違和感は強まり、誰もがそれを言葉にできずに沈黙していた。


 「……また誰かが夜に幻覚を見たって話が出てる」


 寺の縁側で、エリナが肩を寄せるようにして声を落とした。


 「幻覚?」


 リクが眉を寄せる。

 言葉を噛みしめるような口調だった。


 「昨日もそう。畑の番をしていた村人が、“誰かに睨まれていた”って……。顔色を真っ青にして震えていたの」


 ライアンは腕を組み、無意識に辺りへ視線を巡らせる。

 木々の間や寺の影に、何者かが潜んでいるような錯覚を覚えたのだ。


 「夜になると……村のあちこちに、妙な影が現れているって噂もある」


 ユリウスも低く頷いた。


 「実際に目撃した者が複数いる。だが誰一人、その正体を掴めていない」


 「感情を蝕まれるって……こういうことなのかな」


 エリナの声はかすかに震えていた。疑念と恐怖が絡み合い、彼女自身を締め付けている。


 人々の視線は妙に冷たく、隣人への信頼がひとつずつ剝がれ落ちていく。

 些細な言い争い、原因の見えぬ疑心、突如として響く泣き声――。

 その全てが、村を覆う“何か”の兆しであるかのようだった。


 「芳坊の寺に避難してきた人も、日に日に減ってきてる……戻った村人たちの目は、どこかおかしい」


 リセルは焚き火に木をくべながら、火の揺らめきを睨んで言った。


 「まるで……誰かに操られているみたいだった」


 「“嫉妬の魔人”の仕業か、それとも……」


 ユリウスは言葉を濁した。だがその表情には、明確な緊張が走っていた。


* * *


 その夜――。


 寺の裏手、火山の地熱が昇る石畳の路地に、黒い影がいくつも姿を現した。

 焔の明かりが届かぬ闇の中で、彼らは音もなく集う。


 「……準備は整っている」


 低い声が響く。


 くらしょうが水遁の印を組み、霧を走らせる。

 湿り気を帯びた空気がじわじわと路地を満たし、視界を濁らせていく。


 「我らは“歪み”を広げる。内から壊せ。外にはまだ出るな――あの男の合図があるまでは」


 momonosukeが無言で頷く。

 異国の剣を背負い、口数少なく影へと溶けていく。


 その後ろで、地雷嫌が手を合わせ、口寄せの式札を地面に貼っていく。

 貼られた符の一つ一つが、不気味に青白く発光した。


 「……すべては、“あの方”の導きのままに」


 くらしょうがぽつりと呟き、その場の空気がぴたりと凍りついた。


 タケダはやや離れた位置で、岩の上に静かに立っていた。

 その手に握られた愛刀は一度も鞘から抜かれていない。

 だが、その鋭い眼光は、戦いの始まりをただ静かに見据えていた。


 「……油断するな。全ては計画通りに進める」


 タケダの低く、重みのある一言が、闇の中に響いた。


* * *


 翌朝、寺の本堂。


 「村の北側で、深夜に焚き火の跡があったそうです」


 エリナは渡された報告を広げ、皆に示した。


 「しかも、そこにあった足跡が……村の者のものじゃなかった」


 「どこか外部から入り込んでるのか……?」


 リクが呟く。


 「いや。それだけじゃない」


 ユリウスは床に地図を広げ、点在する異常な現象の位置を示した。


 「この配置を見ろ……まるで“何か”を囲い込むような……結界のようにすら見える」


 「結界……?」


 ライアンが思わず声を荒げた。


 「まさか、封印でも解こうってのか……?」


 ユリウスは黙したまま肯定も否定もしない。

 だが、その沈黙が何よりも雄弁だった。


 「それが“嫉妬の魔人”なら、尚のこと止めなきゃならない」


 エリナは寺の奥を見やった。


 「でも、芳坊さん……私たちに何か隠しているんじゃないかしら」


 だが、その場にいるはずの芳坊の姿はなかった。

 ここ数日、寺の奥に籠もることが多く、ほとんど顔を出していない――その事実が、かえって不気味さを増していた。


 一同は息を呑んだ。

 結界のように広がる異常現象の“点”が、まるで村全体を内側から蝕んでいるように見えたのだ。

 これは単なる偶然ではない。

 誰かが、意図的に村を――破滅へと導こうとしている。


 物語は、ゆっくりと “真実の輪郭” へと迫りつつあった。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ