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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第46話:心に巣食う影

 芳坊に案内され、リクたちは寺の広間に通された。

 床には温かな絨毯が敷かれ、壁には色褪せぬ仏画や木彫りの神像が整然と並んでいる。

 奥では香が焚かれ、ほのかに甘い香りが漂い、火山の荒々しさとは対照的な静謐さを生み出していた。


 「火山の地熱を利用した温泉は、この村の命綱でもあります。そしてこの寺もまた、地熱と共に築かれてきた場です」


 芳坊の低く穏やかな声が、静かな室内に響いた。

 その声には落ち着きと重みがあり、ただの説明以上に人の心を静める力を感じさせる。


 リクが切り出した。


 「芳坊さん……この村では、いったい何が起きているんですか?」


 芳坊は目を伏せ、しばし沈黙してから小さく頷いた。


 「ここ最近、村人たちの心がざわついています。疑心、嫉妬、怒り――普段なら小さな波で済む感情が、抑えきれぬほど膨れ上がっている。まるで“心の奥”を誰かに覗かれているかのように」


 「やはり、“嫉妬の魔人”……」


 エリナの声が震える。


 「確証はありません。ただ……村の中で、私自身もいくつか妙な“気配”を感じています」


 芳坊の表情がわずかに険しくなり、ユリウスが静かに問い返した。


 「妙な気配、とは?」


 芳坊は低く答えた。


 「寺の裏手や、山道の途中で見慣れぬ人影を何度か見かけました。村人ではありません。足音を立てずに移動し、姿を見せれば即座に気配を断つ者たち……」


 「……まさか、魔人の協力者……?」


 ライアンが唸る。


 「断言はできませんが、火山の周辺――とくに“戒律の山”と呼ばれる場所には、何かが潜んでいると感じています」


* * *


 その時、重い扉が軋みを上げて開いた。

 立っていたのはリセル――肩には新鮮な獣の血が滴り、荒い息と共に強い緊張を纏っていた。

 普段の快活さは影を潜め、その目は鋭く光っていた。


 「外の見回りから戻ってきた。……けど、やっぱり何かがおかしい」


 「何かあったのか?」


 リクが尋ねる。


 「村の裏道で、見知らぬ男とすれ違った。顔は隠されてて、服も村のものじゃない。あたしが呼び止めたら、笑って山の方へ消えていった。……まるで、見られていたのはこっちの方だったみたいに」


 その言葉に、室内の空気が一気に張り詰めた。


 「それに……数人の村人の様子も変なんだよ。目を合わせようとしないし、寺に近づこうともしない。まるで誰かに“指示”を受けているみたいに」


 「内部に潜んでいる……」


 ユリウスが低く呟き、芳坊も深く頷いた。


 「断定はできません。だが――村の中と外、両方から仕掛けられているのは確かです」


* * *


 その夜――広間に漂った緊張感とは裏腹に、寺の裏庭では場違いな気配が広がっていた。

 月明かりに照らされた影の中、ぺたぺたと小さな足音が響く。


 「兄ちゃん、忍び足の練習、うまくなったよね!」


 「バタケ倒すのはすぐそこだぞ、次郎!」


 そう、五兄弟――太郎、次郎、花子、三郎、良子のPENPENZが、こそこそと修行を重ねていたのだ。

 短い足で草陰を渡り歩く姿はぎこちないが、その表情は真剣そのものだ。


 だが、その様子を暗がりからじっと観察している影があった。

 黒装束、鋭い目、口元には薄い笑み。


 「……今度はペンギンか。妙な因縁を感じるねぇ」


 水遁を得意とする忍、“くらしょう”である。

 彼は指先で手裏剣を弄びながら、梵鐘の方へ目をやった。


 「動くなよ……。今はまだ、“時”じゃねえ」


 その瞳の奥に映っていたのは、照炎寺の梵鐘と、そこへ歩む僧の影だった。


* * *


 翌朝、寺の広間にて――


 「これより、“戒律の山”の調査を開始したいと思う」


 ユリウスが切り出した。


 「寺に伝わる戒律……そこには魔人に繋がる何かが隠されている可能性がある」


 リクたちは静かに頷いた。重い空気が広間を包みながらも、その決意は確かなものだった。


 そして、物語は静かに、次なる局面へと進もうとしていた――。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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