表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第1部:優斗とEriko 〜メタバースの絆〜
5/146

第5話:崩壊

 ある日、XANAメタバース内に、なんの前触れもなく“異常”が発生した。

 空間の一部がひび割れ、都市を包むデジタルスカイが不自然に歪んでいる。美しく整っていたはずの仮想都市は、その形を保てず、崩壊の兆しを見せていた。


 《ERROR 503》《データ転送失敗》《構造体異常》


 赤い警告ウィンドウが画面上に次々と現れては消え、都市の一角が空中で停止する。建物は一部が半透明になり、地面は粒子のように解体されていく。空間そのものが、静かに、だが確実に崩れ始めていた。


 「おかしい……なんで、こんな……?」

 優斗は独り言のように呟きながら、あちこちのエリアを駆け巡った。


 緊急コマンドを入力し、情報端末を開き、アクセスログを確認する。だが、どこをどう調べても手応えはなく、すべての試みは容赦なくエラーとして返される。


 《読み込み失敗》《転送不可》《エリア消失》


 手応えのない作業に苛立ちが募るが、状況は刻一刻と悪化していくばかりだった。

 いつもの広場、ログインゲート、都市の中枢……どこも同じだった。空間は揺れ、道は波打ち、壁が音を立ててずれる。仮想世界の“輪郭”が、見る見るうちに剥がれ落ちていく。


 「優斗、何が起きているの……?」


 Erikoの声が、薄い震えを帯びて届く。彼女の表情に、明確な“不安”が浮かんでいた。

 XANAメタバースは、彼女にとってただの空間ではない。この場所は、彼女自身の存在そのものだった。

 そして今、その“世界”が、音もなく崩れている。まるで、見えない何かに引き裂かれるように。


 「Eriko……お前、大丈夫か? 身体は、意識は……!」


 「……分からない。でも、この世界全体が……おかしいの。何かが、根本から壊れてる」


 その声には、明確な“死”の気配が滲んでいた。

 仮想空間は、コードと数値で成り立つはずの世界。そこに“死の感覚”などあるはずがない。

 だが――今のXANAには、たしかに“生命の消失”を思わせる沈黙と崩壊の音が響いていた。


 「くそっ……どうなってんだよ、これ……!」


 優斗は歯噛みしながら、アクセス権限の最深部にまでコマンドを走らせた。システム復元、エリア強制再起動、セーフゾーン移動。できる限りの手段を試す――が、すべてが拒絶される。


 《アクセス拒否。該当エリアは存在しません》

 《セーフゾーンが見つかりません》

 《構造体が破損しています。再構築不可》


 端末の文字が冷たく光るたび、優斗の背筋に冷たいものが走る。まるでこの世界そのものが、彼らを排除しようとしているかのようだった。


 「優斗……こわいよ……」


 Erikoが肩を震わせながら、そっと優斗の腕にすがりつく。

 普段はどこまでも理知的で、冷静沈着だった彼女が、今はまるで怯えた少女のようだった。

 この世界の“終わり”を、何よりも彼女が一番感じ取っていた。


 「大丈夫……俺が、絶対にお前を助けるから」

 優斗はErikoの手を取り、強く握りしめた。

 その温度が、彼女の存在を感じさせる……はずだった。


 ──ふっ。


 手が軽くなった。


 「……あれ……?」


 次の瞬間、優斗の視界がノイズに包まれる。ざらついた砂嵐のような映像が眼前を覆い、音が途絶え、色が消え、世界の光がすべて、どこかへ吸い込まれていく。


 「Eriko……!? Eriko!!」


 優斗が叫ぶ。しかし、返ってくるはずの声はない。

 彼の声は反響すらせず、ただ虚無に吸い込まれた。

 そこにあったのは、無音。無感覚。光すら届かない、完全なる“闇”だった。


 “世界”が、消えた。


 そして――


 優斗の意識もまた、深い闇の中へと飲み込まれ、完全に断ち切られた。


* * *


 その瞬間、どこか遠くで、何かが裂けるような乾いた音が響いた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ