幕間:めろぱんとneco、春遠からじ
夕暮れの王都。
路地裏の小さなカフェは、赤い夕陽に染められ、窓ガラスに映る影がゆっくりと伸びていた。表通りの喧騒から隔てられたその場所は、まるで時間の流れだけが他と違うかのように、ひどく静かだった。
めろぱんとnecoは向かい合って座り、冷めきったカップを前に、重たい息を吐いていた。
「……はぁ」
「……ふぅ」
ふたりの溜息が、ぴたりと重なる。
他の客からすれば、まるで恋に敗れたばかりの女の子たちの絵そのものだった。
「……ねえ、neco」
「なに」
「私たち、バカだったのかな」
「うん、バカだったよ」
あまりにあっさりした返事に、めろぱんは苦笑した。
指でカップの縁をなぞりながら、言葉を続ける。
「だってさ、あんなに優しかったじゃん。かっこよかったし……話も面白かったし……花まで買ってくれたし……」
ほんの少し間を置いて、頬を赤く染めながらぽつり。
「……エロかったけど」
「ねー……エロかったよね……」
necoが深く頷き、瞳に涙を浮かべる。
「でも、あれが嫌じゃなかった。むしろ、あの無邪気な感じ、ズルかった……」
「うん、ズルい。あんなに自然に近づいてきてさ、何気ない顔して、“惚れさせる”って、ずるすぎるよ」
「ね、ずるすぎる」
言葉を交わすうち、込み上げるものが抑えきれず、めろぱんはテーブルをバンと叩いた。
響いた音に、周囲の客がチラリと振り返るが、もう気にしていられなかった。
「正体が色欲の魔人EROKINGだって!」
「ねえ、人類の敵がどの口で“守ってあげる”とか言ったのよ!」
「ほんとそれ! しかもあの笑顔!」
ふたりは拳を握りしめ、ぶんぶん振る。
椅子が軋む音がしても止められなかった。
だが、ふと。
「……でもさ」
necoがぽつりと呟いた。
「最後、私たちの顔見て、ちゃんと笑ってたよね」
「……うん」
めろぱんは俯き、目元を押さえる。
「たぶんさ……きっと、こうちゃんにとっては、たくさんいる女の子たちの一人だったんだろうけど」
「でも、私たちは……その“たくさん”の中でも、最後までそばにいられたんだよ」
necoも、静かに言った。
「ハーレムの一角だったかもしれない。騙されてたのかもしれない。……それでも、“最後に笑いかけられた”のは、私たちだった」
「うん……そうだよね」
めろぱんは、少し涙ぐみながら、小さく笑った。
「……後悔、してない?」
「してない」
necoは即答した。
「たとえ騙されてても、たとえエロかったとしても、あの時間は、ちゃんと私たちのものだったもん」
「……うん」
ふたりの間に、やわらかな空気が流れる。
それはまるで、冬の終わりにふわりと吹く、あたたかい風のようだった。
* * *
しばらく無言でカップを傾けた後。
necoが、ぽつりと呟いた。
「……ねえ、私、王都、出ようかな」
「え?」
めろぱんが顔を上げる。
「田舎に帰ろうと思うんだ。……ここにいたら、思い出しちゃうから。どこに行っても、あの顔がちらついちゃいそうだけど」
necoの声は、少し笑っていたが、どこか寂しげだった。
めろぱんは少し考え、そして笑った。
「私も。……田舎に帰ろうかな。畑仕事でも手伝いながら、のんびり暮らしたいな。たまに村のお祭り手伝って、素朴な男の人と結婚して……」
「最高じゃん」
necoが目を細める。
「……だよね」
ふたりは顔を見合わせ、ふふっと笑った。
それは、痛みを抱えながらも前を向こうとする笑顔だった。
窓の外、夕陽が赤から紫へと変わっていく。
街並みに灯りがともり始め、遠くから楽師の笛の音が微かに流れてきた。
失ったものは大きく、簡単に癒えるものではない。
けれど――ふたりはちゃんと前を向いていた。
「また、一緒に来ようよ。このカフェ」
「うん。……次は、笑って来よう」
夕暮れのカフェ。
失恋の痛みを抱えながらも、確かに明日を思い描くことのできる、やさしい時間が流れていた。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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