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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第36話:つかの間の休息

 kEROKINGとの激戦が終わり、広場に再び静寂が訪れたのは、太陽が西の空に傾き、瓦礫の影が長く伸び始めた頃だった。

 血と焦げた匂いが混じる中、倒れ伏した魔人の巨体が地面に沈み込み、誰もがその光景をただ呆然と見つめていた。


 リクは傷だらけの体を引きずり、ゆっくりとエリナとライアンのもとへ歩み寄る。

 三人の呼吸は荒く、衣服は破れ、全身は血と泥に塗れていた。それでも――互いの姿を確認できることが、何よりの安堵だった。


 「……終わったのか……」


 ライアンが力尽きたように腰を下ろし、大きく息を吐いた。


 「うん……終わったんだよね……」


 エリナが震える声で答え、疲れ切った身体をリクの肩に預ける。

 彼女の小さな吐息がリクの耳に触れるたび、張り詰めていた緊張がようやく解けていくように感じられた。


 その傍らで、めろぱんとnecoが静かにkEROKINGの亡骸に花を手向けていた。

 誰よりも近くにいた存在を失った彼女たちの瞳には、深い悲しみが滲んでいた。


 やがて夜が訪れ、王都は厳戒態勢を続けながらも、戦いの終結を静かに受け止めていた。

 城下の灯りは少なく、通りには鎧を鳴らす兵士の巡回が絶えなかった。


 リクたちは宿舎に戻され、治療班による手当てを受けた。

 切り傷や打撲に包帯を巻かれ、薬草の匂いに包まれる。

 ようやく部屋へ戻されたとき、三人はそれぞれの寝台に崩れるように身を投げ出した。


 リクの部屋に差し込む月明かりが、静かな夜の訪れを告げていた。


 ――目を閉じれば、激戦の記憶が鮮明に蘇る。

 あの怒号、あの刃の交錯、そして最後の静かな別れ。


 「……とんでもない奴だったな」


 ベッドの上で天井を見つめ、リクは小さく呟いた。

 自分たちは勝った。

 だが、それが“正しかった”のかは分からない。

 ただ一つ確かなのは、命を賭け合った相手を忘れることはできないということだった。


 翌朝――

 空気は澄みわたり、雲ひとつない青空が広がっていた。

 王都はまだ戦の爪痕を残していたが、人々の営みはゆっくりと戻り始めていた。


 痛みは体の随所に残っていたが、リクは立ち上がれるほどには回復していた。

 食堂へ向かうと、すでにライアンがパンを頬張りながら新聞らしき紙を広げていた。


 「お、ようやく起きたか」


 「お前の方が重症だったろ……なんで元気なんだよ」


 リクが呆れたように言うと、ライアンは肩をすくめて笑った。


 「こう見えてタフなんでな。俺の辞書に“寝込む”はねぇんだよ」


 リクが座ると、少し遅れてエリナも姿を見せた。

 片腕に包帯を巻き、大事そうに抱えながらも表情は柔らかい。


 「……おはよう、リク、ライアン」


 「おはよう、エリナ。体、大丈夫か?」


 「うん。少し痛むけど……大丈夫。ありがとう」


 三人が揃って囲む朝食は、質素ながらも心を満たした。

 パンとスープ、温かなハーブの香り。

 その何気ないひとときが、戦いの記憶を少しだけ遠ざけてくれた。


 「なぁ……こうして三人で飯食ってるの、久しぶりじゃないか?」


 ライアンの言葉に、リクとエリナは顔を見合わせ、思わず笑った。

 ほんの数日の間に、何度も命を懸けた。

 だが、こうして笑える今がある。それだけで十分だった。


 その穏やかな空気を破ったのは、ゼインの登場だった。


 「君たち、少し顔色は良くなったな。何よりだ」


 「ゼイン……その様子だと、騎士団の混乱は収まったのか?」


 リクが尋ねると、ゼインは頷いた。


 「ああ。呪術にかかっていた兵もすでに正気を取り戻した。被害は大きいが……君たちのおかげで、王都は守られた」


 リクたちは顔を見合わせ、わずかに安堵の表情を浮かべた。


 「それで……まさか、次の戦いの話じゃないよな?」


 ライアンが苦笑混じりに尋ねると、ゼインは軽く肩をすくめた。


 「いや、違う。今回は女王陛下からの呼び出しだ。午後、謁見の間に来てほしいとのことだ」


 「女王が、俺たちに……?」


 「ああ。君たちは“七つの大罪”を二体も討ち果たした。その功績は、王国として正式に認めなければならない。陛下はそれを自らの言葉で伝えたいそうだ」


 「……わかりました。準備して向かいます」


 リクは静かに頷いた。


 ――つかの間の静寂。だが、それが終われば、再び世界は動き始める。

 彼らはまだ知らなかった。この戦いの先に、さらなる強敵と運命が待ち受けていることを。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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