第35話:宿命の決着
戦場に、風が吹いた。
瓦礫と砂埃が巻き上がる中、リクとkEROKINGの視線がぶつかる。
その間に言葉はなかった。
ただ、魂と魂がぶつかり合う静寂があった。
「──終わらせよう」
低く呟いたリクの声を合図に、kEROKINGが先に動いた。
「これが俺の奥義だァッ!!」
叫びと共に、彼の舌が無数に分裂し、四方八方から荒れ狂う鞭のごとく襲いかかる。
しかもそれだけではない。
口から放たれた妖しき紫煙が視界を覆い、魔力の流れまでも遮断した。
「っく……エリナ、下がれッ!!」
リクが叫ぶよりも早く、エリナの前に舌の一撃が迫る。
彼女は回避する間もなく直撃を受け、横に吹き飛ばされて地面を転がった。
「うっ……!」
地面を抉って止まったエリナは、それでも意識を保ち、震える腕で杖を握り直した。
「……私は、まだ……倒れない……」
「くそっ、やりやがったな!!」
一方、ライアンが咄嗟に大剣を振り上げるも、分裂した舌が絡みつく。
「くっ……!」
持ち上げられた彼は空中から地面へと叩きつけられ、巨体が土煙を巻き上げる。
「ぐああっ……!」
地面を割る衝撃の中、二人の仲間が倒れる――
その中心に、リクが立った。剣を握るその手には、微塵も揺らぎがなかった。
「お前だけでも、仕留めてみせろよ……リク」
血に染まったkEROKINGが挑発の笑みを浮かべ、紫煙を抜けて姿を現す。
リクは静かに息を吸い、剣を構える。
彼の剣先は、まるで迷いなく真っ直ぐに一点を射抜いていた。
「──閃風斬!」
踏み込みと同時、風の壁を切り裂くような鋭い斬撃が解き放たれる。
その一閃は、まさに“技”と“覚悟”の結晶。
分裂した舌すら斬り伏せ、kEROKINGの胸元から肩口を斜めに切り裂いた。
「──ッ!!」
空気が凍る。
リクは剣を下ろし、背を向ける。
そして、同じく背を向けたまま、kEROKINGが小さく笑った。
「……やるなぁ、リク」
その声は――
かつて、色街で笑っていた“こうたろう”のものだった。
「まさか、こんな形でお前とやり合うとはな……」
リクは、その背にそっと声を投げる。
「……こうたろうさん……」
kEROKINGはふらふらと前へ一歩踏み出す。
流れる血が彼の胸元を濡らし、呼吸は次第に浅くなる。
「なあ、リク……最後くらい、願いを聞いてくれねぇか……」
「……なんだよ」
「……女の胸に抱かれて、死にてぇ……」
その瞬間――
「こうちゃん!!」
「こうたろう様っ!!」
遠くから、涙を滲ませながら駆け寄ってきた二つの人影。
それは――めろぱんとnecoだった。
「お前ら……」
声にならぬ吐息が漏れた。
虫の息だったkEROKINGの瞳に、一瞬だけ光が戻る。
まるで夢を見ているかのような、戸惑いと驚きが混ざり合った表情。
いつからそこにいたのか。
彼女たちは何も言わず、ただ彼の身体を支え、そっと胸元へと抱き寄せた。
「……むふっ♡」
にやけた顔を浮かべたkEROKINGは、最後の力を振り絞り、右手を天へ突き上げた。
その瞬間――彼の身体から放たれた光が、柱となって天を貫く。
「我が生涯に……一片の悔い無しッ!!」
その言葉と共に――
kEROKINGは、立ったまま静かに絶命した。
* * *
……しーん、と、辺りに静寂が降りる。
めろぱんとnecoが、涙を流しながら膝をつき、kEROKINGの亡骸を抱きしめていた。
リクも、エリナも、何も言わなかった。
何を言えばいいのか、分からなかった。
ライアンだけが、立ち上がりながらぽつりと呟く。
「……強ぇ奴だったな。でも、最後は……締まらねぇなぁ」
空に風が吹いた。
騎士団の騒めきも、遠く街の怒号も届かないこの戦場に――
ただ、五人の想いと、一人の死が残された。
彼は“kEROKING”として倒れた。
だが、彼の名を“こうたろう”と呼んだ者たちの記憶の中で、その魂は――どこまでも、人間だった。
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