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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第34話:限界の果てで

 王都の外れ、風に削られた石柱と、無惨に砕けた観客席の残骸が並ぶ、かつての王立競技場跡地。

 観客の歓声も、馬の蹄音も、もうここにはない。あるのは砂埃の舞う乾いた空気と、崩れかけた瓦礫だけ。


 リクたちは、呪術の影響が拡大する市街地を抜け、この無人の荒れ地へとkEROKINGを誘い込んでいた。走りながら何度も背後を確認し、足音と共に迫るあの不気味な気配を確かめる。


 「……ここまで来れば、余計な被害は出さずに済む」


 息を整えながら、リクは痛む肩に力を込め、剣を握り直す。


 「街の声も、騎士団の混乱も届かねぇ。ここでなら……あいつと真正面から決着がつけられる」


 ライアンは肩に担いだ大剣を地面に振り下ろし、鈍い音を響かせた。石片が跳ね、砂が舞い上がる。

 エリナは何も言わず、小瓶を取り出して中を確認する。残っているポーションは、わずか一本。彼女の眉間に、かすかな緊張が走った。


 瓦礫の中央――かつて表彰台があったと思われる石台。その上に、奇怪な姿の男が立っていた。

 両生類を思わせる膨らんだ顔に、額から垂れる艶やかなリーゼントだけが、かつての「こうたろう」の面影をわずかに残している。そのギャップは、目を逸らしたくなるほど不気味だった。


 「ふふ……“戦う場所”を選んでから死ぬなんて、殊勝な心がけじゃないか。勇敢なのか、愚かなのか……さて、どっちだ?」


 「どちらでもいい……ここで終わらせる」


 リクの声は低く、しかし炎のように燃え上がる決意を帯びていた。


 その瞬間、戦端が切って落とされる。

 リクの剣が空気を裂き、kEROKINGの爪と激突。金属と肉を削るような音と共に、火花と魔力の衝撃波が四方に弾け飛んだ。


 「おおっと、速ぇな。でも甘い!」


 次の瞬間、kEROKINGの舌が鞭のようにしなり、リクの腹部へ一直線に伸びる。

 リクは咄嗟に剣の柄で受け流すが、反動で足元を削られ、地面を滑るように吹き飛ばされた。


 「ぐっ……!」


 「今だ! 押し切るぞ!」


 ライアンが大剣を振り上げ、巨木を倒すような勢いで斬りかかる。だが――


 「見えてるっての! チンタラした一撃じゃ止められねぇ!」


 舌が再び唸り、大剣を横から弾き飛ばす。衝撃が腕に走り、ライアンは一瞬痺れで握力を奪われた。


 「くそ……攻撃力もスピードも兼ね備えてるとか、反則だろ……!」


 「エリナ、援護お願い!」


 リクの叫びに応じ、エリナが詠唱を終える。

 《閃光槍フラッシュランス》――眩い光の槍が一直線に飛び、背後からkEROKINGを穿つように迫る。


 「ちぃっ、また光か! 目がチカチカすんだよぉ!」


 一瞬、その動きが鈍った。


 リクはその隙を見逃さず、地を蹴って接近戦へ持ち込む。


 「おらああッ!」


 剣と爪が目にも止まらぬ速さで交錯。衝撃で地面が割れ、瓦礫が弾き飛び、炎と土煙が同時に吹き上がる。


* * *


 ――それから、どれほど時間が経っただろうか。

 数十分か、いや、感覚としては半日にも及ぶほどの濃密で熾烈な応酬が続いた。


 競技場跡地は、もはや原型を留めていない。

 石畳は無数の亀裂で覆われ、あちこちに大穴が穿たれ、かつての観客席は半ば崩れ落ちて瓦礫の山と化していた。地表はクレーターだらけで、舞い上がる砂煙が視界を曇らせる。


 三人は背中合わせに立ち、肩で息をしながら相手の出方を探っていた。


 「はあっ、はあっ……くそ……あいつ、全然疲れてねぇのかよ……」


 ライアンが額の汗を腕で拭いながら吐き捨てる。


 「いや……キレは落ちてる。あいつも確実に削れてる……!」


 リクは太腿から滴る血を見下ろし、歯を食いしばった。舌の一撃を防ぎきれず、深く抉られた傷口が熱を持って脈打っている。


 「ポーション……もう、ない……」


 エリナの声はかすれ、魔力を練る手もわずかに震えていた。回復の詠唱は続けているが、その魔力も限界に近い。


 「リク! 次が……ラストチャンスだと思え!」


 ライアンが低く呻くように言う。


 「分かってる……でも決めるには、あいつに“隙”を作らなきゃ……!」


 対するkEROKINGも、肩を上下させながら狂気じみた笑みを浮かべていた。


 「くはっ……いいねぇ、この空気……! 痺れるぜぇ……!」


 血で濡れた舌を引き、膝を曲げて低く構える。その動きに、再び張り詰めた空気が満ちていく。


 一歩、一歩――互いの距離が縮まるたび、瓦礫が足元で音を立てて崩れた。

 最終局面。次に倒れるのは、どちらか。


 刹那の間に放たれるであろうその一撃が、荒れ果てた競技場の静寂の中で、鋭く研がれていた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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