第33話:火花と欲望の狭間で
kEROKINGとの激突が始まって以来、戦場はすでに制御不能な混乱に陥っていた。
騎士団の援軍が到着したにもかかわらず、その勢いは敵を押し返すどころか逆に崩壊の引き金となってしまう。広場のあちこちで異様な光景が広がっていた――味方同士が互いを睨み、次の瞬間には怒声とともに剣を抜き、血を撒き散らしながら斬り結ぶ。
「やめろ! そいつは味方だ! 落ち着け――!」
必死の制止もむなしく、怒りに染まった瞳は味方を認識していない。
「邪魔をするなぁぁぁ!!」
狂気の咆哮と共に剣が振るわれ、仲間の盾を叩き割った。
怒声、悲鳴、武器の衝突音。恐怖と混乱が渦を巻き、紫色の魔力が足元から染み込むように戦場全体を侵食していく。kEROKINGの呪術――欲望を増幅させ、人間の理性を薄紙のように剥がし取る悪辣な力が、瞬く間に兵たちを壊していた。
ゼインは正気を保った部下たちと共に必死に奔走する。だが、混乱は伝染病のように広がり、制御の糸は次々と切れていく。
「くっ……どうすれば!? 援軍が来たはずなのに、かえって戦況が悪化してる……!」
リクは歯を食いしばり、広場全体を一瞥した。視界の端でライアンとエリナが後方を警戒しながら、迫ってくる敵や混乱に巻き込まれた兵士の攻撃を受け流している。
「このままじゃ、まともに戦えねぇ……! いつ背中を刺されてもおかしくねぇ状態だぞ!」
ライアンは大剣を両手で構え直し、剣先で迫る兵を弾き飛ばす。
「騎士団が呪術にやられてる今、この広場じゃ戦えない!」
エリナは短く叫び、防御の魔法を展開しながら周囲の飛び道具や魔法を弾き返す。
「何とかならないの……!?」
リクは呼吸を整え、脳を回転させた。
(このままじゃ集中してkEROKINGと戦えない……。周囲に人が多すぎる。しかも、その大半が敵にも味方にもなり得ない暴走状態……。人のいない、広くて障害物の少ない場所……!)
その時、以前ゼインから聞いた王都の地理が脳裏に閃いた。
(そうだ……!)
「リク、どうする!?」
ライアンが近寄りながら問う。
「旧王都の北西にある王立馬術競技場跡地……! 今は使われてないって聞いた! 広くて、人も近づかない!」
「競技場跡地……!? そこなら被害を出さずに戦えるかもしれない……!」
エリナの声に確信が乗る。
リクは即断した。
「ゼインさん! 俺たちは旧競技場跡地へ向かいます! 援護をお願いします!」
遠くで混乱を指揮していたゼインがこちらに顔を向け、目を見開く。そしてすぐに頷き、鋭い声を飛ばした。
「リクたちに道を作れ! 敵の魔人を、奴らが誘導する! 今踏ん張らねば、王都は終わるぞ!」
その号令に、正気を保つ兵士たちが奮い立つ。剣と盾を構え、暴走した仲間を押しのけ、リクたちの進路を切り開き始めた。
「エリナ、移動中の防御を! ライアン、背後の警戒を頼む!」
「わかってる! 全力で守る!」
「一人も死なせねぇ!」
三人は駆け出した。崩れかけた石壁をすり抜け、瓦礫を飛び越え、混乱の渦を抜けて王都の北西を目指す。
背後からは、靴底を踏み鳴らす重い足音がついてくる。
「おいおい~逃げちゃうのかい? ま、追いかけてあげるけどさ~。その先で……楽しいこと、しようね?」
kEROKINGの声は余裕を含み、背筋を這い上がるような冷たさを帯びていた。
リクは振り向かず、全身で風を切りながら走り続ける。
(あの場所なら……必ず、決着をつけてみせる!)
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