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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第32話:蠢く欲望の波動

 廃れた訓練区画の一角。壁は崩れ、地面の石畳には無数のひびが走り、所々で雑草が荒々しく伸びている。人の気配は薄く、空気はひどく湿って淀んでいた。ここはもう、かつての栄光も役目も失い、静かに朽ちるだけの場所――。

 その静けさを切り裂くように、リクたちは色欲の魔人・kEROKINGをこの広場へと誘い込んでいた。


 「へぇ……こんなとこ、まだ残ってたのか。しっとりしてて……悪くないじゃん」


 広場の中央に立ったkEROKINGは、わざとらしく肩をすくめながら周囲を見渡す。

 だが、その軽口とは裏腹に、全身から立ち上る魔気がじわじわと周囲に染み込んでいく。笑みの奥に潜む獰猛な気配が、場の空気を重く押し潰していった。


 「エリナ、ライアン。警戒を解かないで」


 リクは前方に剣を構えたまま、低い声でふたりに告げる。


 「言われなくてもな……」


 ライアンは大剣の柄を握り直し、腰を落とす。目は一瞬たりとも敵から離さない。


 「リク……あいつ、本気で来るつもりだよ」


 エリナの手元には魔力が集まり、淡い光がゆらめく。


 広場の中央で立つその姿は、もはや人間とは呼べない。

 カエルを思わせる丸い目とぬめりを帯びた皮膚、しかし額から後ろへと流れる妙に艶やかなリーゼントが揺れている。体格は以前のまま筋肉質で人間らしい――その不気味なアンバランスさが、逆に恐怖を煽った。


 「さぁて……お遊びはここからだ」


 不気味な笑みを浮かべ、kEROKINGが一歩、音もなく足を踏み出す。


 瞬間、リクが前に飛び出し、剣を振り下ろす。ライアンも続けざまに横から大剣を振り抜く。

 だが――。


 「っ……!」


 甲高い音と共に、剣も大剣も間一髪で弾かれ、衝撃が腕に返ってくる。


 kEROKINGは口元を歪めて笑い、軽やかに後退する。


 「おーっと、そんなに急がないでくれよ。まずは前菜からってとこだ」


 「くっ……反応が早い!」


 リクは一度距離を取り直し、呼吸を整える。


 「……リク、攻撃は当たってる。けど……あの皮膚、硬い」


 ライアンの低い声は焦りを隠せなかった。


 「何より……魔力の流れが読めない」


 エリナの視線は相手を刺すように追うが、その動きはまるで掴みどころがない。


 数分、様子をうかがう攻防が続く。

 kEROKINGは攻撃を受け流しながら、時折、地を蹴って高速で距離を詰める。その動きは舞うように滑らかで、予備動作がほとんどない。視線と実際の動きが一致せず、次の行動が読めないのだ。


 「チッ……動きに迷いがない」


 リクが歯噛みする。


 「それだけじゃない……こっちの出方を測ってる。完全に遊ばれてる……!」


 エリナの眉間に深い皺が刻まれる。


 緊張が張り詰めたその時――。


 「到着したぞ! 魔物の気配はこの先だ!」


 鋭い声が遠くから響き、足音が石畳を打つ。


 「ゼインだ!」


 リクが振り向くと、鎧をまとった一団が建物の影から姿を現し、広場へ駆け込んでくるのが見えた。


 「リク! 無事か! 状況は!?」


 先頭を走るゼインが声を張る。


 「色欲の魔人、エロキングが……!」


 リクが叫び返す。


 しかし、ゼインの姿を見た瞬間、kEROKINGの表情が不快そうに歪んだ。


 「あ~あ……やっぱ来ちゃったかぁ」


 舌打ちと共に、背中から黒紫色の魔力が溢れ出す。


 「……まあいい。じゃあ、お客さんにはちょっとおとなしくしてもらおっか」


 両手を高く掲げ、低く響く声で呪文を紡ぎ始める。


 「(k)ERO(k)EROエッサイム、(k)ERO(k)EROエッサイム、我は求め訴えたり――!」


 ぞわり、と空気が変わる。紫色の魔力が地面を這い、鎧を伝って騎士たちの足元から這い上がる。


 「な、なんだ……これは……!? うっ……!」


 一人が呻き声を上げ、隣の仲間を睨みつけるように振り返った。


 「……やめろ! 何を――」


 ズバッ。

 金属が裂ける音。次の瞬間、騎士団員たちが互いに武器を振るい始めた。怒号と悲鳴が交錯し、秩序が瞬く間に崩れていく。


 「ゼイン!? 大丈夫か!?」


 リクが叫ぶ。


 「この呪術……人間の欲望を増幅させて理性を奪っている!」


 エリナが鋭く言い放つ。


 「欲望の呪い……っ!」


 ライアンの声が低く響く。


 「このままじゃ……騎士団が機能しない!」


 リクは唇を噛み、剣を握り直した。もう誰も頼れない。

 ――自分たちの手で、この場を乗り越えるしかない。


 広場を見下ろすkEROKINGは、にやりと笑みを深めた。


 「さぁて……次のダンス、始めようか?」

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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