第31話:正体と決意
「ぐっ……!」
膝が地面に沈み込むほどの衝撃。リクは呻きながら、片手を土に突き立てて必死に体を支えた。耳の奥で鈍い唸りが鳴り、視界がわずかに揺れる。先ほど浴びた衝撃波の余韻が、全身の筋肉をじわじわと蝕んでいた。
隣ではエリナが片膝をつき、荒い息を整えている。その指先は小刻みに震え、口元がわずかに固く結ばれていた。ライアンも大剣を杖代わりにして、なんとか立ち上がる。周囲にいた市民たちは地面に倒れ込み、恐怖と混乱の中で互いにしがみついている。
「いったい……何が起きたの……?」
エリナは震える声で周囲を見回す。
ライアンは大剣を杖代わりにしながら立ち上がり、視線の先にいる男を睨みつけた。
「……まさか……あの男が、色欲の魔人……?」
ライアンの目が細まる。
その視線の先に立っていたのは、つい先ほどまでこうたろうだったはずの男――だが、もはや別人だった。
kEROKINGと化したその姿は、体格や服装こそ変わらぬものの、顔は異形へと変貌していた。
丸く大きなカエルのような両目がぎょろりと動き、その奥には不気味なほど研ぎ澄まされた知性と、底知れぬ悪意が渦巻いている。皮膚はぬめりを帯びた緑がかっており、それでいて頭には、以前と同じくリーゼントがきっちりと固められていた。その異様な組み合わせは、見る者の脳裏に強烈な違和感を刻みつける。
「冗談……だろ……? こうたろうさんが……魔人だったなんて……」
リクは苦しげに呟く。胸の奥で、先ほどまでの笑顔と今の怪物の顔が交互に浮かび上がり、心がざわついた。
「……リク」
エリナが隣に立ち、震える膝を押さえながら深く息を吸い込む。その瞳には、恐怖だけではない、混乱と悔しさが滲んでいた。
「まさか……あんなに楽しそうに笑ってた人が……こんな……!」
「気を抜くな。あれは“魔人”だぞ。ヴェリスと同格――いや、それ以上かもしれねぇ」
ライアンは低く唸るように言い、大剣を構え直す。
そんな三人を前に、kEROKINGは愉快そうに口角を吊り上げた。
「(k)ERO、(k)EーRO!」
「へぇ……まだ立てるんだ? さすがだなぁ、リク。お前たちには少し強めにしたんだけどな……こりゃあ、ちょっとは本気で遊べそうだ」
「遊びじゃない!」
リクは剣を構え、目を細める。その声にはわずかに震えが混じっていたが、瞳はまっすぐ敵を射抜いていた。
「エリナ、ライアン……街の人たちを守るためにも、ここで止める。あいつを――色欲の魔人を!」
「うん……分かってる。でも、力の差が……」
エリナは唇を噛みしめ、拳を握る。
「だからこそ、援軍が必要だ!」
リクは決意を込め、鋭く叫んだ。
「リリィ!」
その名を呼ぶや否や、周囲の影が揺らぎ、黒いフードを被った少女が音もなく姿を現す。
「参上しました、リク様」
「色欲の魔人をここで倒す! 女王に至急、援軍を要請してくれ!」
短く命じられたリリィは、無言で深く頷くと、再び影に溶けるように姿を消した。
「リク……本当に、やるんだね」
エリナが不安を押し殺した声で問う。
「ああ。あれをこのまま逃がせば、きっと次は……もっと多くの人が死ぬ。俺たちがやらなきゃ……誰がやるんだ!」
「……なら、俺もやるしかねぇな。俺たちで、やってやろうぜ!」
ライアンも大剣を肩に担ぎ、覚悟を決めたように頷いた。
kEROKINGはそのやり取りを見ながら、どこか楽しそうに舌なめずりをしていた。
「(k)ERO、(k)EーRO!」
「へぇ……三人とも、いい顔するじゃねぇか。さぁて、どこまで耐えられるか、試してやるよ」
リク、エリナ、ライアン――三人は互いに目を合わせ、深く頷いた。
「絶対に負けない……俺たちで、終わらせるんだ!」
瓦礫と悲鳴に包まれた街の中心で、再び刃が構えられる。
この戦いがどれほどの犠牲を伴うのか――それはまだ、誰にも分からない。
だが、彼らの覚悟はすでに決まっていた。
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