第30話:仮面の下の真実
リクは、こうたろうとの食事を終えた帰り道、その人柄と存在感が頭から離れなかった。
――強くて、陽気で、どこか頼れる兄貴分。
仲間に誘ったときのことを思い返す。
あのとき、こうたろうは拒まなかった。ただ、何かを含んだような笑みを浮かべていたのが気になっていた。
宿屋への帰り道を教えてもらい、賑やかな色町を抜けて歩いた時間も、妙に印象に残っている。
「強いだけじゃない、あの人の中には何か別のものがある……そんな気がした」
――翌日。
ギルドの談話室でライアンとエリナと合流していたリクは、昨夜のことを思い出しながら黙り込んでいた。
「ねぇ、リク。昨日の夜、どこ行ってたの?」
エリナが不機嫌そうに口を開く。
「えっ、ああ……ちょっと、町を歩いてたら迷って、色町に出ちゃって……」
「色町!? 何してたのよ!」
「ち、違うって! たまたま迷って、そこで知り合った人に助けてもらって……飯を奢ってもらっただけだよ!」
「ふーん……変な人じゃなかったの?」
「うん、なんていうか……すごく不思議な人だった。でも悪い人じゃない。……たぶん」
「おいおい、たぶんってなんだよ……」
ライアンが苦笑する。
――その日の午後。
リクはエリナ、ライアンと共に王都の市場に立ち寄っていた。
それぞれ別の用事で動いていたが、ちょうど中央広場に差し掛かったとき――
「……ん?」
リクがふと目を向けると、あの特徴的なリーゼント姿が目に入った。
「こうたろうさん!」
リクが人混みの中に見覚えのある人物を見つけ、思わず声を上げた。
「あ? おお、リクじゃねぇか。奇遇だな」
こうたろうは振り向いて手を上げた。
こうたろうも別の用事があったらしく、偶然の再会だった。
エリナとライアンもその場に居合わせ、こうたろうをまじまじと見た。
「こうたろうさん、昨日はありがとうございました」
「ははっ、礼なんていらねぇよ。」
エリナはじっとリクとこうたろうを見比べたあと、眉をひそめた。
「あなたが……色町で会った人?」
「お、おう……」
「ふぅん……女性じゃなかったのね」(小声)
「お、もしかして俺に惚れたか?」
「そういうわけじゃ……って、茶化さないでくださいよ!」
エリナは顔を真っ赤にして反論する。
……リクは話を逸らすように話題を切り出した。
「こうたろうさん。実は……俺たちの次の目的は、七つの大罪の一人、色欲の魔人『k』なんです」
「……ほう」
「昨日、協力してくれるか聞きましたよね。その返事、もし聞かせてもらえたら……」
こうたろうの表情がわずかに揺れる。彼は口元を押さえ、何かを堪えるように笑い出した。
「色欲の魔人、『k』……。どうにもダサいんだよな。『k』って、なんだよ。知れ渡ってないんだなぁ、本当の名前は『(k)EROKING』なのによ」
「……え? エロキング?」
「あぁ?!違う! そうじゃねぇ! 『(k)E・RO・KING』だッ!!」
「え……エ・ロ・キング? それってやっぱり間違っていない……」
※注:『(k)』の音は人間には正確に聞き取ることができない。結果として、どうしても「エロキング」と誤認されてしまうのだ。
「……貴様……今、また言ったな……?」
こうたろうの目が鋭く、赤く光る。
「二度も……俺の名前を、あの禁句ワードで呼んだな……」
バシュウッ!!
次の瞬間、空気が一気に張り詰め、見えない衝撃波が放たれた。
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
「な、なんだ!?」
リク、エリナ、ライアン、さらには周囲にいた人々までもが吹き飛ばされ、辺りは騒然となる。
「がはっ……」
「痛っ……!」
「何が起きたんだ……!?」
倒れ込んだ人々の叫び声やうめき声があちこちから響き、広場は一瞬でパニックに包まれた。
「こうちゃん!? なにしてるのよ!」
「こうたろう様、やめてっ!」
めろぱんとnecoも先ほどの衝撃波で吹き飛ばされたが、ケガはないのか、泥だらけになりながらも駆け寄る。
しかし、こうたろうはただ静かにリクを見据えていた。
「あーあ、やっちまったなぁ。禁句ワード言われると自制ができないからいけねぇや。……リク、次の目的は、色欲の魔人『k』と言ったな。見せてもらうぜ、お前が本当に俺とやり合える実力があるのかどうかをな……」
「まさか……あなたが……」
「(k)ERO、(k)EーRO!」
「そうさ。俺こそが――色欲の魔人、『k』こと『(k)EROKING』だ!」
町の一角に、激突の幕が落とされた。
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