第28話:迷い込んだ色町と「こうたろう」
王都での生活にも少しずつ慣れてきたリクは、この日は訓練を休み、久々に一人で城下町を散策していた。
ギルドや王城といった目的地以外を歩き回ることはほとんどなかったため、王都全体の地理には疎かった。
「たまには訓練以外のことをしないと、頭が固くなるってライアンさんも言ってたしな」
リクは自分に言い聞かせるようにして、通りを歩き続けた。
しかし、気がつけば見慣れない道に迷い込んでいた。細い路地を抜けると、明るい灯りと賑やかな笑い声が聞こえてきた。
「ここは……なんだ?」
リクは首を傾げながらも、興味を引かれて足を進めた。
目の前に広がっていたのは、華やかな装飾を施した店々が立ち並ぶ一角。艶やかな衣装を纏った女性たちが通りを行き交い、呼び込みの声が響き渡っている。
「色町か……普段通らない道を歩いてたら、こんなところに出ちゃったのか」
リクは訓練や依頼以外の時間を過ごす場所として、このような街を訪れることはなかった。
「お兄さん、遊んでいかない?」
「まあまあ、遠慮せずに寄っていってよ」
色町の女性たちから誘いを受けるが、リクはどう返せばいいのかも分からず困惑する。
「えっと、あの……」
「おいおい、こんな純情な顔したガキが色町をウロウロするとはな!」
声をかけてきたのは、派手なリーゼントを決めた男だった。その姿は、街中でもひときわ目立つ。豪快な笑い声を響かせながら、女性二人を伴って歩いていた。
「俺の名前はこうたろう! ここじゃちょっとした有名人ってやつだぜ」
こうたろうは胸を張って笑った。
両脇にいた女性たちも、彼に甘えたように腕を絡めている。片方は柔らかい笑みを浮かべる「めろぱん」、もう片方はすっきりとした美貌の「neco」だった。どちらも色町で名の知れた人気のある女性だと、周囲の視線から察せられた。
「ねえ、こうちゃん。今日はどこに連れてってくれるの?」
めろぱんが甘い声で尋ねる。
「こうたろう様、今日は美味しいものが食べたいな」
necoも軽い調子で言葉をかける。
「へへっ、任せとけ! お前らが満足する店に連れてってやるよ!」
こうたろうはそう言いながら、めろぱんの腰からお尻にかけてをさりげなく撫で、necoの胸元に手を伸ばして軽く揉んだ。
「ちょ、こうちゃんっ♡ 外でそんなの……」
めろぱんは口を尖らせながらも、頬を染めて笑う。
「ほんと大胆なんだから……ま、嫌いじゃないけど」
necoは呆れたように笑い、肩を軽くすくめた。
リクはその様子を見て唖然としていた。
「すごいな……こんな風に女性と楽しそうに話せるなんて」
「なんだお前? お前も遊びに来たのか? それともただの迷子か?」
こうたろうが笑いながら尋ねる。
「えっと……迷子です」
リクは照れくさそうに頭を掻いた。
「迷子だぁ? ははっ! お前、もしかして王都に来たばっかりとかか?」
「いえ、王都にはしばらくいます。ただ、普段はギルドとか王城に行くだけで……あまり街を歩き回ることがなくて」
「なるほどな。なら、案内してやろうか? って言いたいところだが、今はこいつらと遊びに行く予定でな」
こうたろうは再び、necoの腰に手を回し、めろぱんの胸を横から突くようにして、悪戯っぽく笑った。
「ちょっと~、もう、こうちゃんってば♡」
「ほんと手が早いよね……ま、楽しいからいいけど」
二人のリアクションからも、普段からこの調子なのだと察せられた。
「せっかくだし、お前もついて来いよ。迷子なら誰かに案内してもらうのが一番だろ?」
「えっ? でも、俺は……」
「遠慮すんなって! 困ってるやつを見捨てるなんて俺の性に合わねぇんだよ」
こうたろうはリクの背を軽く叩いた。
「こうちゃんってば、意外と面倒見がいいんだね」
めろぱんが笑う。
「困ってる人を助けるのは良いことだよね」
necoも頷いた。
「決まりだな! ほら、さっさと行くぞ!」
こうたろうはリクを引っ張り、近くの居酒屋へと案内した。
その夜、リクは王都の新たな一面を知ることになった。
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