第24話:女王からの招待
リクたちは、王都の冒険者ギルドで新たに受けた依頼を着実にこなしていった。
この数日間は、まるで息をつく暇もないほどの忙しさだった。王都周辺で頻発する魔物討伐、要人や商隊の護衛、さらには街道沿いの治安維持。時には、辺境の村から頼まれた薬草の採取など、比較的平和な任務もあった。
その一つひとつが違う顔を持ち、対応の仕方も異なる。だが、そのすべてが彼らの経験となり、確実に力を磨く糧になっていた。
依頼を終えたある日、夕暮れ時のギルドのホールは、任務を終えた冒険者たちの声で賑わっていた。
木製の机や椅子に腰を下ろし、酒や食事を楽しむ者。受付で報酬の計算をしてもらう者。情報交換のために地図を広げる者――その活気に包まれながら、リクたちは長テーブルの端に腰を下ろした。
「ふぅ……今日も無事に終わったな」
リクは背もたれに体を預け、額の汗を布で拭う。ほっと息を吐くその表情には、充実感とわずかな疲労が滲んでいた。
「まさか、魔物退治から街道の安全確保まで、こんな短期間で何本もやることになるとはな」
隣に腰を下ろしたライアンが、苦笑交じりに言う。大剣を背にしたまま、軽く肩を回して筋肉をほぐす仕草は、戦い続きの疲労を物語っていた。
「でも……こうして依頼をこなしていけば、私たちも確実に強くなっていける気がします」
エリナは手元の水差しを持ち上げ、皆のカップに注ぎながら微笑んだ。戦闘中とは違い、穏やかなその表情は仲間への信頼を感じさせる。
「確かにな。危険もあるが、経験を積むには悪くない」
リクも頷き、カップを傾けて一口飲む。冷たい水が喉を通り、全身の緊張が少し解けていく。
* * *
その時、ギルドの重い扉が大きく開いた。
油差しの行き届いた蝶番が低く軋み、冷たい外気が一瞬にしてホールへと流れ込む。賑やかな空気の中でも、その音と気配は不思議と人々の注意を引いた。
入ってきた人物に、リクたちはすぐ気づいた。
背筋を伸ばし、落ち着いた足取りで進むその男――ゼイン。蒼天の剣団長である彼の姿は、場にいる誰よりも際立っていた。
「ゼインさん!」
真っ先に声を上げたのはエリナだった。驚きと喜びが入り混じったその声に、周囲の冒険者たちもざわめく。
「やあ、君たち」
ゼインは軽く顎を引き、柔らかくも威厳のある笑みを浮かべながら近づいてくる。その瞳には、何かを伝えようとする強い意志が宿っていた。
「女王への報告、終わったんですか?」
リクが立ち上がり、真っ直ぐに尋ねる。
「ああ。ヴェリスの件を含め、私が見聞きしたことはすべてお伝えした。道中での戦いも、しっかりと話しておいたぞ」
ゼインは視線を少し遠くにやり、旅の中で見た彼らの戦いぶり――危機における判断の速さや仲間との連携――を思い返すように目を細めた。
「……そして、女王陛下が“直接話をしたい”と仰せだ。すでに謁見の許可は下りている」
「俺たちに……女王陛下が?」
リクは思わず目を見開いた。想定外の展開に、胸の奥で緊張が高まる。
「ただの冒険者にしては、大げさすぎやしませんかね?」
ライアンが腕を組み、警戒心を隠さずに口を挟む。
「確かに、君たちは騎士でも貴族でもない。だが、“傲慢の魔人ヴェリスを討った”という事実は重い。それに……」
ゼインは一瞬言葉を切り、真剣な眼差しで三人を見渡した。
「私個人としても、君たちは信頼できる者だと判断した。だからこそ、陛下に推薦した」
「推薦したんですか!?」
エリナの瞳が丸く見開かれる。
「ああ。今の王都は、“色欲の魔人『k』”による圧力に晒されている。陛下は、ただ力がある者ではなく――“意思を持って戦う者”を重んじる方だ」
その声は静かでありながら、言葉の端々に確かな重みがあった。
「……王都が“色欲の魔人”の影響を受けているって、前にも聞きましたけど……そんなに深刻なんですか?」
リクが問いかけると、ゼインは短く頷く。
「そうだ。すでに周辺地域でも被害が確認されている。敵の本格的な侵攻が始まる前に、こちらから動かねばならない段階にある」
言葉のひとつひとつが、場の空気を引き締めていく。
「その一環として、女王陛下が君たちと直接会って話をしたいと考えておられる。この先、共に動くかどうかは――それを聞いた上で判断してくれればいい」
リクは短く黙し、やがて口を開く。
「……わかりました。行きます。これも俺たちが進むための一歩だと思いますから」
「私も……話を聞きたい」
エリナはまっすぐな瞳で答えた。
「付き合ってやるよ。ここまで来たら引き返すのも癪だしな」
ライアンは肩をすくめつつも、どこか楽しげに笑う。
ゼインは微かに口元を緩めると、ゆっくり背を向けた。
「では案内しよう。女王陛下が、君たちと語らうのを楽しみにされている」
* * *
こうしてリクたちは、ゼインの先導で王都の中心部――
白亜の石壁に金の装飾が輝く壮麗な宮殿の奥、謁見の間へと足を踏み入れることになった。
そこには、これまでの依頼や戦いでは味わえなかった種類の緊張と期待が、確かに満ちていた。
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