第21話:戦いの爪痕
フェルダンの街は、かつての賑わいを失い、無惨な姿を晒していた。瓦礫の山、崩れた家屋、血の跡――その全てが激戦の爪痕を物語っていた。
ヴェリスを倒したことで、魔物たちは統制を失い、ちりじりに散っていった。残された冒険者や兵士たちが追撃を行い、街中の魔物は次第に駆逐されていった。しかし、その代償は大きかった。
「……ひどいな」
ライアンが呆然としながら呟いた。
「これが……ヴェリスとスタンピードによる被害……」
リクも同様に、惨状を目の当たりにして言葉を失っていた。
街の人々は恐怖と絶望の中で泣き崩れていた。親を失った子供、家を失った老人、仲間を失った冒険者――あらゆる悲鳴と泣き声が響き渡っていた。
「助けてください……」
「家族が……家族がいないんです!」
「もう嫌だ……もう戦いたくない……」
兵士たちもまた、その心は折れていた。
自分たちが命をかけて守ってきた街が、このような悲惨な状態になるとは予想もしていなかったのだ。
「どうすれば……」
エリナは膝をつき、地面に手をついていた。
リクはエリナの肩に手を置いた。
「エリナ……俺たちは生き残った。だから、今できることをしよう」
「……うん。私も、もっと強くならないといけないって痛感した。けど……私なりに精一杯やったつもりなのに、これじゃまだ足りないんだね」
エリナの目は悔しさで潤んでいた。
「俺もだ……もっと強くならないと、また誰かを失ってしまう。こんな悲しみを繰り返さないために、俺はもっと強くならなきゃいけない!」
リクは拳を握りしめ、決意を新たにした。
「ライアンさん、俺たち……次に進まなきゃいけないと思うんです」
「まあな……だけど、今は少し休もうぜ。身体も心もボロボロだ」
ライアンは苦笑いしながら肩をすくめた。
「そうですね……」
リクも頷いた。
* * *
数日が経ち、フェルダンの街は少しずつ復興の兆しを見せ始めていた。
冒険者ギルドも再開し、街の復興を手伝う冒険者たちで賑わいを取り戻していた。
しかし、その中でも未だに不安の声は消えていなかった。
「次はいつ魔物が襲ってくるか分からない……」
「外壁も堀もボロボロ。もうここに留まるのは危険だ……」
「誰か……王都からの救援はこないのか?」
リクたちはギルドでの手伝いを続けながら、街の人々の声を耳にしていた。
「俺たちがあのスタンピードを起こした奴を倒したって言っても、信じてくれないんだよなぁ」
ライアンが苦々しげに呟く。
「それだけ、みんなが今の状況に混乱しているってことだよ」
リクが答えた。
「……でも、私たちだけじゃ限界があるかもしれない」
エリナは目を伏せた。
* * *
そんなある日、ギルドに見慣れない男が現れた。
長身で引き締まった体つき、鋭い目つきに淡々とした表情。身に着けている鎧は高級そうで、ただ者ではない雰囲気を漂わせていた。胸には「蒼天の剣」の紋章が刻まれている。
「君たちが、フェルダンを守るために戦った冒険者たちだな?」
男はゆっくりと近づきながら視線を合わせた。
「……そうだが、誰だあんた?」
ライアンが警戒しながら応じる。
「私は『蒼天の剣』の団長、ゼインだ。この地への救援と復興支援の任を受け、ここへ派遣された。加えて、魔物の活動が活発化している原因を調査することも任務に含まれている」
「支援のために来たんですか……」
エリナが少し安堵の表情を見せる。
「そうだ。そして噂を聞いた。君たちがあの『傲慢』の魔人、ヴェリスを討ち取ったと」
ゼインの鋭い眼差しは、まるで相手の内面を見抜こうとするかのように鋭かった。
ゼインはリクたちを観察しながら、経験に基づいて彼らの実力を推し量っていた。
リクの鋭い眼差しと確かな構え、エリナの不思議な存在感、そしてライアンの実戦経験からくる落ち着き――全てがただ者でないことを物語っていた。
「しかし、状況はさらに悪化している。我々の王都もまた七つの大罪の一人、色欲の魔人『k』による侵略を受けている」
「王都まで……?」
リクは驚愕の表情を浮かべた。
「人類が生き残るかどうかは、魔王を打倒できるかにかかっている。しかし、残された時間はそう多くはないだろう」
ゼインの声は重く、決意が滲んでいた。
「どうだろう? ヴェリスを討った君たちが魔王討伐に協力してくれれば、これ以上心強いことはない。まずは王都に来て、『k』を討つ協力をしてもらえないだろうか?」
「分かりました。俺たちも強くなるために、そしてこの世界を守るために協力させてください」
リクは決意を固めた。
「付き合ってやるか」
ライアンが苦笑いしながら頷いた。
「私も……力になりたいです」
エリナも力強く頷いた。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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