第17話:黒幕との激戦
リクとライアンは、町を包囲する魔物たちの中でも異質な存在――指揮官と思しき魔物へと向かっていった。
後方では、エリナが息を切らしながらも援護を続けている。
「リク、ライアンさん! 私ができる限りサポートする!」
「無理はするな!」
ライアンが鋭く声を飛ばす。
「でも、力になりたい! 二人の助けになれるなら、私は……!」
「なら、後方支援に徹しろ! 無茶だけはすんな!」
ライアンは一喝するが、その声にはどこかエリナの決意を受け止める響きがあった。
リクはすでに剣を握り、危険も顧みず前線へと踏み出そうとしていた。
「待て、リク。お前一人で突っ込むな」
ライアンが苛立ったように低く言う。
「でも、あれを倒さなきゃ……この街は終わりだろ」
「分かってる。だが、無謀に突っ込んだって死ぬだけだ。少なくとも一人でどうにかできる相手じゃねぇ」
「分かってるよ。でも俺は……もう、誰にも犠牲になってほしくないんだ」
リクの目に、痛みと決意が交錯していた。
* * *
指揮官らしき魔物は、鋭い目つきでリクたちを見下ろしていた。人間のような姿を持ちながらも、背中には黒い翼が生えており、全身が異様なオーラに包まれている。
「ほう……愚かな人間ごときが、ここまで来るとはな」
低く響く声が、リクの胸を揺さぶる。まるで空気自体が圧迫されるかのようだ。
「お前が……このスタンピードを引き起こしているのか!」
リクが剣を構えながら叫ぶ。
「愚民どもを一掃するのは当然のことだ。我が力に抗うなど滑稽極まりない」
「何者だ……お前は?」
ライアンが眉をひそめながら問いかける。
「名を知りたくば、教えてやろう。我が名はヴェリス――『傲慢』を司る者だ」
「傲慢……?」
リクはその言葉に違和感を覚えた。ただの魔物とは明らかに違う威圧感と、自己を誇示する言葉。
「七つの大罪を象徴する存在の一つ。それが私だ。全ての愚か者を見下し、蹂躙する者……貴様らも同じ運命を辿るだけだ」
「そんな奴に、この街を滅ぼさせるわけにはいかない!」
リクは剣を振りかざし、突進した。
「ふっ……無駄なことを」
ヴェリスは軽く腕を振り、衝撃波を放った。
「うっ……!」
リクは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「リク!」
エリナが悲鳴を上げる。
「おい、ガキ! 無茶するんじゃねぇ!」
ライアンがリクを引き起こしながら叫んだ。
「まだ……やれる!」
リクは痛む身体を起こし、再び剣を握り直した。
「無力な者がいくら足掻こうと、結果は変わらぬ。無駄だ」
ヴェリスは冷酷に告げる。
「くそっ……!」
リクはもう一度突撃を試みるが、再び衝撃波に弾き返される。
* * *
その頃、フェルダンの街は崩壊の寸前にあった。
「もうダメだ! 魔物が突破してきたぞ!」
「くそっ! 誰か、誰か助けてくれ!」
「逃げろ! 町が……町が崩れる!」
兵士たちは次々と倒れ、冒険者たちも戦意を失って次々と撤退していく。町の門はすでに破られ、魔物たちが町の中へと流れ込んでいた。
「うわああああ!」
「いやだ、助けてぇ!」
「誰か、誰かぁ!」
子供たちの悲鳴、大人たちの絶叫。フェルダンの街は確実に崩壊へと向かっていた。
* * *
「人間どもの悲鳴が心地いい……少し、遊んでやる」
ヴェリスが冷笑を浮かべ、黒い光を手のひらに集め始める。
「後悔するするぞ……エリナ、援護を頼む!」
ライアンが叫ぶ。
「分かった! 少しでも時間を稼ぐ!」
エリナは光の壁を展開しながら、震える膝を必死に支える。
「リク、いいか。あいつを倒せるかどうかなんて、今の俺たちじゃ分からねぇ。だが――」
「でも、やるしかない。俺はもう、逃げたくない!」
リクの目には揺るがぬ意志が宿っていた。
「チッ……本当に、手のかかる奴だ」
ライアンは再び剣を構え、前に出る。
「無理するなよ、ガキ……俺が盾になってやるから、お前は狙え。あいつの隙を――!」
そして、ふたりの戦士は再び闇の中へと飛び込んだ。
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