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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜

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第15話:突如として訪れた災厄

 リクとエリナがフェルダンの街に拠点を移してから、もう数日が経っていた。

 最初のうちはすべてが初めての経験で、戸惑いばかりだった二人だが、今では冒険者としての生活にも少しずつ馴染み始めていた。


 依頼掲示板の前で相談しながら任務を選び、足りない装備を確認し、必要なら道具屋で補充をする。報告は丁寧に、礼儀も忘れずに。

 そんな“当たり前”の動作ひとつひとつが、確実に二人の中に根付き始めていた。


 その日も無事に依頼を終えたあと、ギルド併設の酒場でひと息ついていた。


 「今日の依頼も、何とか終わったね、リク」


 エリナが息をつくように笑った。頬にはうっすらと汗が残っていたが、目に宿る光ははっきりとした自信に満ちている。

 ついこの前までの彼女では考えられないほど、心身ともにたくましくなってきた。


 「うん。少しずつだけど、俺たち、動きにも余裕が出てきたと思う。剣も、ちゃんと当たるようになってきたし……でも、もっと強くなりたいな」


 リクの声には、手応えと、それ以上の向上心が入り混じっていた。

 連携も取れるようになってきたとはいえ、任務中には未熟さを痛感する場面も多い。自分たちはまだ“駆け出し”に過ぎないのだという事実が、胸の奥に根を張っていた。


 その様子を、テーブル越しに見守っていたライアンが、空になったジョッキをテーブルにコトンと置きながら口を開いた。


 「ふっ、順調そうじゃねぇか。お前らもようやく、冒険者らしくなってきたな」


 「ライアンさんが色々教えてくれたおかげです。本当に感謝してます」


 リクが素直に頭を下げると、ライアンは肩を軽くすくめながら小さく笑った。


 「礼なんていらねぇよ。俺も昔は誰かに教えてもらってた。……ただな、調子に乗るんじゃねぇぞ。街の中でこなす依頼と、外の魔物の群れじゃ、危険度がまるで違う」


 その一言に、リクとエリナは無意識に背筋を伸ばした。

 気を引き締めろ――そう言われている気がした。


 その時だった。


 「緊急事態だァァァッ!!」


 ギルドの扉が勢いよく開き、ひとりの男が血相を変えて飛び込んできた。

 荒く息を吐きながら叫ぶ声は、場の空気を一瞬で変えるには十分すぎた。


 「どうした!?」

 真っ先に反応したのはライアンだった。椅子を蹴るように立ち上がり、男に詰め寄る。


 「街の外だ! 魔物の群れが一斉に押し寄せてきてる……! ――スタンピードだ!!」


 その言葉が響いた瞬間、ギルド全体が凍りついた。

 まるで時間が止まったような静寂。その後に押し寄せたのは、冒険者たちのざわめきと、底知れぬ不安だった。


 「まじかよ……!」

 「嘘だろ、こんな田舎でスタンピード……!?」

 「聞いたことはあるけど、まさか本当に起こるなんて……!」


 中堅と呼ばれる冒険者たちすら青ざめていた。

 スタンピード――それは、突然変異的に活性化した魔物たちが理性を失い、狂ったように街や村を襲う現象だ。

 規模によっては都市ひとつを飲み込むとされる災厄。まさに、命を懸けなければ防げない戦いだった。


 リクとエリナもまた、その場に立ち尽くしていた。

 言葉を失い、息を飲む。どんな依頼とも異なる、底知れぬ恐怖が背を這い上がるのを感じていた。


 「リク……」


 震える声でエリナが名を呼んだ。目には迷いと覚悟が入り混じっている。


 「……怖いか?」


 リクがそっと問いかけると、エリナはほんの少しだけ頷いた。


 「うん。すごく。でも……怖いからこそ、行かなきゃって思うの。誰かが止めなきゃ、この街が――人が、消えてしまうかもしれない」


 「……俺もだ。今のままじゃ何もできないけど、それでも立ち止まりたくない。行くしかないよな。たとえ無謀だと思われたって……!」


 自分の拳に力がこもる。

 リクは剣の柄を強く握りしめ、エリナもそっとその隣に立つ。


 二人のそんな姿を見て、ライアンが苦笑まじりに口を開いた。


 「まったく……お前ら、どこまでバカなんだか。でも――」


 彼は腰の大剣を掴み、勢いよく肩に担ぎ上げる。


 「……そういうバカは、嫌いじゃねぇ」


 力強く言い放ったその言葉に、リクとエリナの表情が引き締まる。


 「リク、エリナ。お前らも行くぞ。まずは俺がついてる。命張って守ってやる」

 そう言ってから、少しだけ振り返り、笑って言葉を続けた。


 「……その先は、自分たちで掴み取れ」


 「はいっ!」


 二人の声が重なり響いた。

 それは不安を抱えながらも、確かに未来へと進もうとする“勇気の声”だった。


 彼らの足は、いま――過酷な戦場へと向かって踏み出そうとしていた。

 恐怖も、未熟さもすべてを抱えて。

 それでも進むことだけが、彼らにできる唯一の“正義”だったのだ。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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