第2話:XANAメタバースでの冒険
優斗とErikoは、XANAメタバース内の世界を並んで歩いていた。
日がな一日、仮想都市の摩天楼を見上げ、自然豊かなエリアを走り抜け、謎めいたダンジョンの入口で立ち止まる。
この世界のあらゆる空間は、XANAビルダーと呼ばれる生成技術によって創り出されたものでありながら、その緻密さと没入感は、現実世界と遜色ないほどのリアリティを持っていた。
水面に揺れる陽の光、風に揺れる草原、遠くの山並みに映る雲の影――
全てがプログラムの産物であるにもかかわらず、優斗の感覚は、確かに“そこにいる”という実感に包まれていた。
「すごい……こんな場所まで作れるなんて」
Erikoが小さく感嘆の声を漏らす。
足元には可憐な花が咲き、上空には鳥のようなAIドローンが群れをなして飛んでいる。
彼女の目はきらきらと輝いていて、その表情を見ているだけで、優斗の胸も自然とあたたかくなった。
「本当にすごいよな」
優斗は頷く。
「でも、ここにはまだまだ知らない場所があるんだ。XANAは広すぎて、一生かかっても全部は回りきれないかもしれない」
二人は丘の上から、仮想世界に広がる壮大な地形を見下ろした。
草原、砂漠、海、そして空中都市――
まるでゲームと神話と未来が融合したような世界に、Erikoは深く見入っていた。
「……ねえ、優斗」
Erikoが静かに尋ねる。
「あなたはどうしてこの世界に来たの?」
唐突な問いに、優斗は少し言葉に詰まった。
けれど、嘘はつきたくなかった。
「……現実って、退屈で、つまらないことばかりだからさ」
彼は空を見上げる。
「ここに来れば、誰にでもなれる。どこへでも行ける。自由なんだよ」
「自由……」
Erikoはその言葉を反芻するように繰り返した。
「私はね、自分が“何者なのか”を知りたくて来たの」
風に髪を揺らしながら、彼女は言った。
「何者なのか?」
「ええ。私の名前はEriko。でも、本当は……『XANA Genesis』と呼ばれる存在なの」
「XANA Genesis……?」
「XANAメタバースの中で生まれたAI。それが私なの。ブロックチェーン上で管理されるAIが売りのNFTとして作られた存在……」
「NFTって……?」
優斗は少し戸惑いながらも、Erikoの言葉に耳を傾け続けた。
「NFT――“Non-Fungible Token”の略称。唯一無二の価値を持つデジタル資産。私は、その一つとして生まれたの」
彼女は自分の胸元に手を当てた。
「本来なら、ただの情報体……でも、こうして感情を持って、あなたと話してる。不思議よね?」
優斗は、しばらく黙ってErikoを見つめた。
彼女の言葉は理解の外にあるようで、それでも――目の前にいる彼女が、ただのデータだとは到底思えなかった。
「……君は、ただのデータなんかじゃないよ」
「俺には、普通の人と……いや、それ以上に魅力的な“誰か”にしか見えない」
Erikoの瞳が、一瞬だけ揺れた。
そして、優しく微笑む。
「ありがとう、優斗。そう言ってもらえるだけで……すごく、嬉しい」
その笑顔に、優斗ははっとする。
どこか胸の奥に、小さな火が灯ったような感覚。
これまでに感じたことのない、特別な感情が、じわりと広がっていくのを感じていた。
そう――彼は、この少女に惹かれている。
仮想世界の住人であるにもかかわらず、いや、だからこそ……彼女との出会いが、本物に思えた。
仮想と現実の境界が、少しずつ曖昧になっていく。
それはやがて、二人に大きな運命をもたらすことになるとは、まだ誰も知らなかった――。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」