第13話:森での遭遇と謎の存在
リクとエリナはライアンの助言を受けながら、少しずつ冒険者としての仕事をこなしていった。初めは簡単な採取や配達といった平和な依頼が中心だったが、日々の経験とともに、次第に難易度の高い任務にも挑戦できるようになってきた。最近では、魔物討伐のような危険を伴う依頼も少しずつ任されるようになり、リクもエリナも着実に力をつけていた。
その日も、いつものようにライアンが二人を見送りに来ていた。冒険者としての実力がついてきたとはいえ、まだまだ油断は禁物だ。
「リク、エリナ。今日の依頼は森の中での薬草採取だ。魔物との戦闘が前提の依頼じゃないが、自然の中では何が起きるか分からない。くれぐれも油断するなよ」
ライアンがいつものように穏やかな声で注意を促すと、リクは元気よく頷いた。
「はい、大丈夫です! 気をつけて行ってきます!」
その言葉に、エリナも柔らかく微笑む。
「今日も頼りにしてるよ、リク」
「任せろって。俺が絶対に守るからな」
少し照れくさそうに笑いながらも、リクはしっかりとした声でそう言った。そんな二人のやり取りに、ライアンもつい笑みを浮かべた。
森の入り口は静かで、鳥のさえずりと風に揺れる木々の音が心地よく響いていた。何度か来たことのある場所とはいえ、森の中に一歩踏み込むたびに、未知の世界へ足を踏み入れるような緊張感が漂う。
「この辺りで薬草が見つかるはずだよね」
エリナが地図を広げながら辺りを見回すと、リクは剣を軽く構えたまま周囲を警戒する。
「うん、たしか前回来た時もこの辺りに生えてたはず。エリナ、気をつけてな。薬草探してると夢中になっちまうから」
「うん、大丈夫。リクがいるから安心して探せるよ」
二人は草むらをかき分けながら、慎重に歩を進めていく。そんな中、突然エリナが何かを見つけたのか、声を上げた。
「あっ、リク、見て! あそこに……!」
彼女が指さす先には、丸々とした毛玉のような、小さな熊のぬいぐるみのような生き物がいた。ふわふわの毛に覆われたその愛らしい姿に、エリナは目を輝かせる。
「わぁ……かわいい……! こんな可愛い魔物、見たことない……!」
エリナはその小さな存在に引き寄せられるように、思わず一歩踏み出した。
「エリナ、やめろ! 近づくな!」
突然、森の奥からライアンの鋭い叫び声が響いた。
「えっ……?」
エリナが立ち止まった瞬間、小さな毛玉は異形へと変貌した。ふわふわの毛は逆立ち、体はみるみる巨大化し、ぬいぐるみのような丸い目は鋭い獣の瞳に変わる。牙を剥き出しにし、凶悪な唸り声を響かせながら、あっという間に恐るべき魔物の姿へと変わっていた。
「う……嘘……!」
「くそっ! エリナ、下がれ!」
リクはすぐに剣を抜き、エリナの前に立った。しかし、意外なことに、魔物は咆哮を上げながらも攻撃してくる気配を見せない。鋭い眼光のまま、ただじっとエリナを見つめている。
「何だ……? なぜ襲ってこない?」
静寂の中、らふくまはしばらくその場に佇んだ後、何もせずに森の奥へと消えていった。
「……行った?」
エリナが震える声で呟く。
ライアンがすぐに駆け寄り、二人の無事を確認する。
「無事で良かった。あれは『らふくま』っていう魔物だ。見た目に騙される奴が多いが、あれは凄く凶暴で危険な魔物なんだ」
「らふくま……?」
リクが疑問の声を上げる。
「見た目は可愛いぬいぐるみみたいだが、正体は人を襲う獰猛な魔物さ。普通なら襲われてもおかしくないのに……なぜエリナを見ただけで立ち去ったのかは分からない」
「……そうなんだ。でも、あんなに可愛い姿なのに……」
「油断するな。あれはこの辺りに出るような魔物じゃない。それに、らふくまの毛は高値で取引されることもある。滅多に出ない上に、狩るのが難しいからな」
エリナは怯えながらも、不思議そうな表情を浮かべていた。
「どうして私を見ただけで立ち去ったんだろう……?」
「それは分からない。だが、お前が無事で良かった」
ライアンは安堵しながら二人を促し、依頼を無事に達成した後、ギルドへと戻った。
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