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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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第151話:魔王、束縛を解く

 「……終わった、の……?」


 肩で息をつきながら、エリナがかすれた声を漏らした。

 玉座の間には、崩れた柱と割れた石床の残骸が散乱し、先ほどまで渦巻いていた黒い霧は薄く漂うのみ。


 魔王は膝を折ったまま、微動だにしない。

 黒焦げた外套が炎の残滓を吐き、灰がゆらりと舞う。

 砕けた天井の裂け目から、魔王の顕現で赤く染まった空がのぞく。

 その血のような光と、壁に残る松明の炎とが交じり合い、瓦礫に不気味な赤黒い影を落としていた。


 「……やったのか……?」


 剣を下ろしかけたリクが、乾いた声でつぶやく。

 彼の腕は戦いの余韻で震え、血の匂いが喉に張り付く。


 「――むっ! 油断するなッ!」


 サクラの鋭い叫びが空気を裂いた。

 同時に彼はエリナの前へと飛び出す。


 ガキィンッ――!


 耳を裂く衝撃音。

 魔王の拳が、サクラの脇腹の鎧を正面から打ち砕いた。

 鉄が悲鳴を上げ、重い体が宙を舞う。


 「「サクラ団長!」」


 エリナとリクが声を合わせるが、その反応は一瞬遅かった。

 熟練の剣士と若き二人――経験の差は、刹那の判断に如実に表れていた。


 サクラは壁際に激突し、砕けた石片が四散する。

 瓦礫に埋もれながらも、彼は必死に体を起こした。


 魔王はゆっくりと立ち上がる。

 膝を折っていた姿は幻だったかのように、背筋はまっすぐに伸びている。

 燃え残る外套をつまみ、無造作に脱ぎ捨てた。


 ――ドスンッ。


 燃えカスと化したはずの布切れが床を揺らし、砕けた玉座の破片が微かに跳ねた。


 「……これが何かわかるか?」


 魔王が口角を吊り上げ、低く嗤う。


 「己の肉体を鍛え上げるため、あえて重りを纏っていたに過ぎぬ」


 その言葉と同時に、黒き気配が膨れ上がる。

 玉座の間を満たす闇は圧縮され、耳鳴りを伴う重圧となって三人を押し潰さんばかりに迫った。

 石床が震え、壁の裂け目から細かい砂が降る。


 「その束縛を解いた今――我が身体能力は、かつての6.66倍に達する!」


 言葉が終わるより早く、魔王の姿が掻き消えた。

 空気が裂ける音だけが残る。


 「――ッ!」


 リクが気づいた時にはすでに遅かった。

 シュン、と一閃。

 魔王の蹴りが脇腹に突き刺さる。

 鈍い衝撃が体内を駆け抜け、肺の奥から熱い血が逆流した。


 「ごふっ……エリナぁぁっ! 強化魔法を! 早く!」


 痛みに耐えながら叫ぶリク。

 その速さ――前衛が盾とならなければ、いかに強力な魔法を放とうとも、エリナに詠唱の暇はない。


 「……っ、わかった!」


 エリナは焦燥を押し殺し、両手を床石へかざした。


 「根源鎖息こんげんさいき!」


 足元の石床が淡く光を放つ。

 大地の脈動が彼女の体を通り抜け、鎖の紋が輪を描いて広がった。

 光の鎖は生き物のようにうねり、二人の身体を一瞬で包み込む。

 まるで大地そのものが呼吸し、彼らの血潮と心臓を直接揺さぶるかのように、鼓動が重なった。


 「これは……力が――!」


 リクは驚きに目を見開く。

 砕けた肋骨が瞬時に癒え、筋肉が再び力を取り戻していく。

 体の奥から、熱が燃え上がるような力が湧いた。


 「俺たちが前に出る! エリナっ! キミの魔法の邪魔はさせない!」


 剣を構え直すリクが、サクラへ視線を送る。


 「了解した!」


 サクラは再生する肉体の熱に顔を歪めながら、片膝をついて立ち上がった。

 ひび割れた鎧をものともせず、魔王へ向けて鋭い眼光を放つ。


 闇が唸りを上げた。

 魔王は獣のごとく嗤う。


 「さぁ――今度は貴様らがどこまで持つか、見せてもらおうか!」


 次の瞬間、空気そのものが悲鳴を上げた。

 稲妻のような衝撃音とともに黒い残像が玉座の間を駆け抜け、視界が歪むほどの風圧が襲いかかる。

 黒い残像が三人を取り囲み、石壁が次々と砕け散る。

 風圧だけで瓦礫が舞い、折れた柱が悲鳴を上げて崩れ落ちた。


 リクはその一撃一撃を受け流し、サクラは残った力を全て注ぎ込み、盾となる。

 剣と闇が火花を散らし、床に走った裂け目からは灼熱の風が吹き上がった。


 「エリナ、今だぁぁぁぁ!」


 リクの叫びに応じ、エリナの瞳が五色の光が鎖の輪が輝きを増す。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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