第149話:再会と決意
扉は音もなく開き、内側から白い光が滝のように溢れ出した。
その光はやさしくも力強く、エリナの全身を包み込み、心の奥底までも温めていく。
足を一歩踏み入れた瞬間、世界は一変した。
壁面には虹色の粒子が脈動し、天井から降り注ぐ光が床を鏡のように照らす。
耳に届くのは、どこからともなく流れる透き通った旋律。
美しいはずなのに、胸は妙なざわめきに包まれた。
――未知の空間。
だが、通路の構造や装飾の一部に、かつて遺跡で見た記憶の断片が重なっていく。
ここは……やはり、あの場所の“本来の姿”なのか。
通路を抜け、階段を上ると、広大なホールへと出た。
周囲を見渡すと、円形の部屋を囲むように五つの扉が静かに閉ざされている。
既視感は確信へと変わり、胸の奥が熱を帯びる。
――ここは、ManakaとAylahに出会った遺跡そのもの。
その瞬間、ひとつの扉が静かに開いた。
白光の奥から、一人の女性が姿を現す。
淡い紫髪を編み込み、未来的な装甲を纏ったその人は、凛とした微笑みを浮かべてエリナの前に立った。
「私は XANA: Genesis #2275「Adrina」。……Eriko、よくここまで来ましたね」
エリナは遺跡のようで、違うこの建物についての疑問をぶつけた。
「ここは、どこなの?」
Adrinaは説明する。
「ここはあなたの精神世界。 あなたが知っているのは崩れ果てた遺跡だけれど、今見えているのは――かつてこの場所があった本来の姿です」
「やっぱり……。 今見ているのは遺跡の過去の姿なのね」
「はい。この建物は、もともとあなたの世界に存在したものではありません。 いま見えている外の景色も再現に過ぎず、元はXANAメタバースにあった施設です。 けれど■■の攻撃で破壊され、長い時をさまよった末にこの地へ落ち、眠りにつきました。 かつて五つの扉の奥には、私たちGenesisが宿るNFTDuelの石板が保管されていましたが、幾世代のうちに盗掘され、世界へ散ってしまったのです。 そして――ついに五人が再び、この場所に集いました。」
Adrinaは一呼吸置き
「私もあなたの力になります」
そして、Adrinaはエリナの胸元に手を伸ばし、触れる。
電子音のような澄んだ響きが脳裏に広がる。
――《Genesisカード Adrina 取得》 XANAチェーンに金属性 Lv1付加
金属的な共鳴が、心の奥底まで染み込んでいった。
続けざまに、周囲の空気が震えた。
「ついに五人がそろったわね」
聞こえた声の方へ振り向けば、Manakaが笑顔で立っていた。
「え?Manaka、いつの間に?!」
エリナが驚く。
「私もいるわよ」
背後から突然、澄んだ声が響いた。
振り返ると、さっきまで誰もいなかったはずの場所にAylahが立っている。
さらに別の方向からHina、そしてMiraiの声が重なり――気づけば三人とも、初めからそこにいたかのように静かに微笑んでいた。
「みんな……!」
Hinaが微笑む。
「Eriko、私も思い出した。私たちGenesisは、あなた達を応援するするわ」
「みんなはなぜ私をErikoと呼ぶの? 私はエリナよ?」
問いかけに、五人は顔を見合わせ、寂しげに目を伏せた。
Aylahが静かに言う。
「記憶は自分で何とかするしかないわ」
Miraiも頷く。
「私たちにできるのは、あなたを――いえ、あなたたちを支えることだけ……」
Adrinaが一歩前に出る。
「……色々疑問はあると思うけど、今はそれどころじゃないわね」
「……え?」
エリナはきょとんとする。
「エリナ、あなたは今だ魔王ルシファーとの戦いのさなかにいます。 あなたがここにいる間も、■■さんとサクラさんは必死に戦っています。 しかし、彼ら二人で魔王を倒すことはできないでしょう。 これ以上遅れれば、二人の命が危うい。……あなたの力が必要です。」
「っ!! リク……!」
魔王との死闘が脳裏に閃き、リクとサクラが今も必死に戦っている光景が押し寄せる。
それなのに自分だけがここで立ち尽くしている――その無力さが胸を鷲づかみにし、息が詰まった。
Adrinaが指を差すと、空間に光の渦が立ち現れた。
「あなたを通して私たちも一緒に戦います。 行ってくださいっ!」
エリナはリクを死なせたくないと、不安に駆られ、駆け出した。
エリナは光の渦の縁でピタリ、と止まり、振り返った。
「……また、会えるかな?」
Genesisたちは一斉に微笑む。
「私たちはもう繋がっています。いつでも、あなたと共に」(Adrina)
「いつも一緒ですよ!」(Manaka)
「そうだよ!」(Mirai)
「がんばって!」(Hina)
「負けないで!」(Aylah)
エリナは力強く頷き
「うん……行ってくる!」
と息を整えて言った。
そして、白光の渦へ身を投じた。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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