第12話:初めての依頼
リクとエリナは、ライアンの案内でギルドから受けた初めての依頼――薬草採取のため、郊外の草原へと足を踏み入れていた。
空は高く澄みわたり、草の海が風に揺れて波打っている。目的の薬草は「ミレスの葉」。初心者向けの定番依頼で、山のふもとの陽当たりの良い場所に群生しているという。
「エリナ、大丈夫か? 無理はするなよ」
リクは隣を歩くエリナの様子を気にかけ、声をかけた。
「うん。ありがとう、リク。……こうして並んで歩けてることが、なんだか不思議だなって思って」
エリナはやわらかく微笑みながら、揺れる草を両手でそっとかき分けていく。昨日までの不安な表情は薄れ、どこか晴れやかな顔つきだった。
「そうか……なんか、オレもちょっと緊張してたけど……今は、すごく落ち着いてる」
リクも笑い返す。二人の間には、ゆっくりと信頼と絆が芽生えつつあった。
一方、少し離れた木陰では、ライアンが腕を組みながら二人の様子を見守っていた。
彼は目を細め、小さく唸る。
「ふむ……まあ、村出にしては悪くない。意識は高いし、何よりあの集中力……」
だが、そのとき風が一瞬止まり、空気が張り詰める。
耳慣れぬ低い唸り声が、草原の奥から響いた。
「……この音……!」
ライアンが顔をしかめると同時に、茂みを割って現れたのは、複数の狼型の魔物だった。牙を剥き出しにして走るその姿に、リクたちは一瞬で緊張を走らせた。
「くそっ、まさかこんな草原で魔物か! リク、エリナ、構えろ!」
ライアンの声が響く。リクは反射的に剣を抜き、エリナの前へと立つ。だが敵は3体、いや4体――多い。リク一人では全ての攻撃を防ぐのは難しい。
「エリナ……逃げ――」
言い終わる前に、エリナが一歩前へ出た。
その瞳に、迷いはなかった。
「……XANAチェーン・光盾!」
彼女の指先から、まばゆい光が放たれた。空中に絡み合う鎖のような紋様が形成され、やがてそれは大きな盾となって眼前に展開される。
「なっ……」
ライアンが思わず声を漏らした。
「今の魔法……あんな形、見たことがない……!」
光の盾が狼たちの突進を真正面から受け止め、火花を散らして衝撃を吸収する。その隙を逃さず、リクがすかさず前に飛び出す。
「たあっ!」
鋭い剣筋が唸り、一体目の魔物を斬り伏せた。続けてライアンも大剣を構え、残る魔物たちへ一直線に駆け込む。力強い一撃で二体、三体と次々に叩き伏せていった。
やがて、草原に静寂が戻る。
魔物の亡骸を前に、リクは息を切らしながらも剣を収め、すぐにエリナの元へ駆け寄る。
「エリナ、助かった! おまえがいなかったら危なかった……!」
「ううん……リクが守ってくれるって思ったから、私も動けたの……」
二人の視線が交差する。その間に、ライアンがゆっくりと歩み寄ってきた。
彼はしばらく何かを考えるように、無言でエリナを見つめる。
「……今の、魔法……いや、“あの魔法”と呼ぶべきか。あれは……ただ事じゃねぇな」
エリナの肩がぴくりと震えた。
彼女は小さな声で、そっとつぶやく。
「……やっぱり……普通じゃないよね、私の魔法って。村の人たち……みんな気味悪がってて……」
リクが言葉をかけようとするが、ライアンが先に口を開く。
「たしかに、見たことも聞いたこともねぇ。あの形も、あの光も……ありえない。でもな」
彼はそこで言葉を切り、エリナをまっすぐに見据えた。
「お前の魔法は、人を助けた。誰も傷つけちゃいねぇ。それだけで十分だ。……それに」
ライアンは少しだけ、苦笑した。
「村のやつらが理解しようともしねぇで怖がった。それだけの話だ。俺は違う。今のお前を見た上で、言える。お前の力は、“悪いもん”じゃねぇよ」
「……!」
エリナの瞳が大きく見開かれ、そしてすぐに潤んだ。
「俺も……俺もずっと信じてるよ。エリナの力は、誰かを守るためのもんだって」
リクの言葉に、彼女は静かに頷いた。
その頬には、涙が一筋流れていた。
「ふん……初依頼でこんな感動シーンが見られるとはな。悪くない」
ライアンが照れ隠しのように肩をすくめた。
こうして、リクとエリナは一歩ずつ、“冒険者”としての道を歩き始めたのだった。
その背には、不安も迷いもあったが、それ以上に――確かな絆と信頼があった。
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