幕間:えぬ・てぃー・あーる
――これは、まだ彼が「人間」だった頃の記憶。
takは田舎の小さな村に生まれた。
真っ直ぐで正義感あふれる青年で、村の誰からも頼りにされていた。
そして彼には、将来を誓い合った幼馴染がいた。
名前はXANAKID。
明るく天真爛漫で、誰からも愛される少女だった。
村を旅立つ日。
takは決意を込めて言った。
「王都ですぐに騎士になる。そうしたら君を王都に呼び寄せる」
XANAKIDは頬を赤らめて笑い、「うん、待っているね。 頑張ってtak!」と応えた。
その言葉を胸に、彼は村を後にした。
* * *
王都での生活は厳しかったが、持ち前の真面目さと努力、そして天性の素質によって、takは瞬く間に兵士として頭角を現した。やがて騎士への昇進も目前となる。
だが運命は、残酷な形で彼を裏切った。
城壁の外の森で「魔物が組織的に動いている」という報せを受け、takは同僚と共に調査へ向かった。
だが森に足を踏み入れた瞬間、罠は牙を剥いた。
魔物の群れに包囲され、仲間は次々に命を落とし、残ったのはtakひとり。
「村に……彼女を残してきた。俺は死ねない!」
必死の気迫で剣を振るったが――現れたのは傲慢の魔人ヴェリスだった。
「ふむ、いきのいい獲物ですね。 実験体として持ち帰りましょう」
絶望的な実力差に、takは為す術もなく捕らえられた。
* * *
そこからの日々は、地獄そのものだった。
ヴェリスの実験室。薬品、魔術、寄生虫……ありとあらゆる苦痛が彼に与えられ、死ぬことすら許されなかった。
骨を砕かれては強制的に治癒され、内臓を抉られては再生され、takは「壊され、直され」を繰り返され続けた。
普通ならば精神は壊れる。
しかし彼は壊れなかった。村に残してきた彼女の存在――XANAKIDの笑顔が、彼の心をつなぎとめていたのだ。
「必ず帰る。必ず……」
その想いだけが、彼を支えていた。
だがある日、異変に気づく。
実験が途絶え、しばらく拘束もされず放置されるようになったのだ。
そして耳に入った報せ――。
「ヴェリスが討たれた」と。
takは鎖を引きちぎり、実験室を脱走した。
* * *
村へ戻った彼は、懐かしい姿を目にする。
XANAKID。
彼女は変わらぬ笑顔を浮かべていた。
だが、彼女の視線の先にいたのは別の幼馴染――HYO。
二人は抱き合い、唇を重ねた。
「……なにを、している?」
takの声に、二人は振り返り、凍りつく。
「tak!?」
「t、tak!? 戻っていたの?」
XANAKID、HYOはいるはずのない突然の来訪者に、何を話していいのかわからずパニックになる。
「……どういうことだ?」
沈黙の後、HYOが開き直る。
「……XANAKIDに寂しい思いをさせていたおまえに責められる筋合いはない!」
XANAKIDも続ける。
「そうよ。あなたよりもHYOの方が、私を愛してくれているわ。 王都で“遊んでいる”人より、HYOの方がいいの!」
その瞬間、takの内で何かが音を立てて崩れた。
「……俺は……王都に出て一年。 ……死に物狂いで剣を振るい、……捕らえられて、……拷問されても、おまえの存在があったから……!」
肉体が震え、皮膚が裂け、筋肉が膨張する。変異が始まった。
「「ひっ……!」」
恐怖に駆られたHYOは声を上げた。
「t、tak、すまん! 気の迷いだったんだ! XANAKIDに言い寄られて、仕方なく……返すから、俺は見逃してくれ!」
「何言ってんのよ! あんたが俺に乗り換えろって毎日誘惑してきたじゃない! ちがうの、tak! 誤解なの! 今もあなたのことを――だから、やめてぇぇぇ!!!」
――すぱん。
一瞬。
目の前にいた二人の人間だった“もの”は、細切れの肉片と化した。
「……ヒャッ、ヒャヒャヒャヒャヒャァァァ!!!」
takは狂気の咆哮を上げる。
「なぁんだ……我慢なんてする必要なかったんだなぁ。最初から、俺の好きにすればよかったんだ! ヒャッヒャヒャァァァ!! もっとだ……もっと肉を見せろ! あぁ……まずは、この村ごと……肉団子にしてやろうかなぁぁ!!」
その夜。
takの故郷は、地図から消えた。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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