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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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第138話:紅の空に響く指揮

 ロビンの呼吸は荒く、肩が上下に大きく揺れていた。

 指先から生まれた光の矢を握りしめ、汗で震える手を必死に制御する。

 彼女の眼差しは正面――瓦礫を踏みしめながらゆっくりと歩を進めてくる、異形の男に注がれていた。


 「……おまえの消耗、見てとれるなぁ」


 takがにたりと笑い、爛れた声を吐き出す。


 「こいつは俺が直接やるか。首をねじりきる楽しみは、他のやつに奪われたくないからな。ヒャッヒャヒャヒャ……」


 だがその笑みはすぐにいやらしい形へと歪む。


 「でもまぁ……他のガーゴイルどもを、遊ばせっぱなしにする理由はないよなぁ?」


 「まさか……!」


 ロビンの目が見開かれる。


 takは肩を揺らして笑った。


 「……気づいていないと思ったかぁ? おまえが密かに――逃げ遅れた連中を守っていることに。ヒャッヒャヒャァァァ!」


 「喰い散らかせッ!!!」


 その号令と同時に、周囲に群れていたガーゴイルが一斉に咆哮を上げ、四方へ飛び散る。

 建物の陰、瓦礫の奥――隠れていた王国民たちの悲鳴が次々とあがる。

 幼い子を抱きしめて逃げる母親、足を引きずりながら必死に走る老人――その背へ、ガーゴイルの牙が容赦なく食い込む。

 骨の砕ける音、肉を裂く感触、血飛沫が赤い雨のように宙を舞い、夜の王都を塗りつぶしていった。

 瓦礫から追い立てられ、逃げ惑いながらも見通しの良い場所に出てしまった者たちは、次々に群れに飲み込まれていく。


 「やめろぉぉーーーっ!!!」


 ロビンの絶叫は掻き消される。

 takはその混乱を楽しむように、翼を広げて突進してきた。


 「周りを気にしてる場合かよォォォ!」


 刹那、爪が閃き――すれ違いざまにロビンの脇腹を削ぎ落とした。


 「ぐふぅぅぅッ……!」


 血が口から溢れ、膝が崩れそうになる。

 だがロビンは必死に踏みとどまった。

 視界の端には、泣き叫ぶ子供の姿が見える。

 ――ここで倒れれば、誰が守る?

 脇腹から溢れる血を押さえつけ、膝が崩れそうになるのを歯を食いしばって耐えながら、低く呟いた。


 「……調子に……のるなよ……!」


 彼女は理解していた。takのような速度を誇る相手に、通常の矢では届かない。

 狙ってもかわされる。だが逆に――一瞬でも直線に走る瞬間があれば、その軌道を貫くことはできる。


 その“たった一度”に賭けるため、ロビンは弓を変化させた。


 次の瞬間、弓がうねり、巨大な兵器へと変貌を遂げる。

 鉄と木の軋む音が響き、腕を数本も重ねたかのような大弩――バリスタがその姿を現した。


 「……これなら、一撃で仕留められる……!」


 だが照準は定まらない。

 takは不規則な軌道で空を駆け、笑いながら自らの身体を切り裂く。


 「気持ちいぃぃぃぃぃぃいいいいい」


 鮮血をまき散らしながら、彼はエクスタシーに浸り、さらに速度を増して飛翔する。


 「……ああ、イイネイイネイイネイイネイイネイイネイイネイイネ……!」


 やがて、その視界に一人の人影が映った。

 瓦礫の隙間から這い出し、必死に走る一人の女性。


 takの顔に、いやらしい笑みが浮かぶ。


 「いただきまーす……」


 翼を震わせ、一直線に急降下する。


 女は背後の異変に気づき、恐怖に突き動かされて振り返った。

 迫る影を目にした瞬間、体はすくみ、表情は恐怖に引きつった。


 「……っ!」


 takの爪が、今まさに届こうとした瞬間――突如、takの動きが止まる。


 「…………」


 女性は恐怖に硬直し、takは何故攻撃を止めたのかわからない。

 その時間は長く感じられたが、現実は一瞬。


 そして――空気を裂く轟音が響いた。

 それは矢とは思えぬほど重く鋭い音。

 バリスタの弦が限界を超えて唸り、光を帯びた魔力の矢が雷鳴のような轟きを伴いtakを貫いた。


 takの胴に、ぽっかりと穴が開く。

 血が噴き出し、身体が揺らいだ。


 「……XANAKID……?」


 虚ろな声を漏らしながら、その場に崩れ落ちていく。


 その閃光のような魔力の矢を放ったのは、ロビンだった。

 肩で荒く息をし、腕は震えている。

 弦を引き切った衝撃で全身が悲鳴を上げていたが――それでも彼女は弓を握り続けていた。

 ここで崩れるわけにはいかない。

 takという強敵を討ち取った今もなお、戦場は終わっていないのだ。


 「……ガーゴイルを指揮していた者は討った! 残党を掃えッ!!」


 その声が夜空を突き破り、周囲の兵たちに力を取り戻させる。


* * *


 地面に伏したtakは、まだ息があった。

 虫の息で、先ほどの女を見上げる。


 「……チッ……似ても似つかねぇじゃねぇか……」


 女は絶叫しながら、瓦礫の陰へ逃げ去った。


 takの瞳からは徐々に光が失われていく。


 「未練……でも……あったのか……?」


 かすれた声とともに、彼の口元から黒い血泡が零れる。

 翼は砂のように崩れ落ち、爪も牙も無力な塊と化していく。

 王都を恐怖に陥れた怪物は、今や瓦礫に埋もれたただの骸でしかなかった。

 ――だが、戦場はその骸に目を向ける暇すら与えない。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

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