幕間?【PENPENZ】27:あうあう忍法・最後の一撃
「バタケの邪魔は……絶対にさせない!!」
太郎の絶叫が戦場に響いた瞬間、PENPENZは四方から同時に飛びかかった。
小さな体で必死に突撃する姿は、無謀にも見えたが、その眼差しは確かに鋭かった。
怠惰の魔人こった姫が足を叩きつける。
地面が悲鳴を上げ、轟音と共に陥没した。
爆ぜる砂塵が舞い上がり、視界は茶色の嵐に閉ざされる。
その濁流の中、ペンギンたちは声を振り絞りながら、ただひたすらにぶつかり合った。
「調子に乗るんじゃないわよォォッ!!」
「やらせないっ!」
太郎が棍棒を振り下ろす。
全力で振り抜いた一撃は、地面を割り裂きながらこった姫の肩を強烈に叩きつけた。
衝撃音が広場を揺らし、土煙が炸裂。
「ぐっ……!」
こった姫の身体が一瞬傾ぐ。だが次の瞬間、鋭い爪が閃いた。
太郎の頬に深々と傷が走り、鮮血が飛沫となって散った。
「にいちゃん!!」
三郎が絶叫と共に踏み込む。
二本の小太刀を交差させ、稲妻のような連撃を繰り出した。
刃と刃が火花を散らし、ついにこった姫の脇腹へ突き立つ。
「もらったぁぁっ!」
だが、その瞬間――拳が三郎の鳩尾を捉えた。
「ぐっ……!!」
凄まじい衝撃に肺の空気をすべて吐き出し、三郎の身体は弾き飛ばされ、血を吐きながら地面を転がった。
「余所見している暇はないよッ!」
花子が両手いっぱいにクナイを投げ放つ。
数え切れない軌跡が空を切り、こった姫の髪を裂き、鱗を剥がし飛ばす。
「このガキィッ!」
怒りに燃えた蹴りが花子の体を襲った。
「きゃあっ!」
小さな体は無残に宙を舞い、砂塵を巻き上げながら地面を転がる。
「ねえちゃん!」
良子が震える足を前に出し、必死にボーガンを構える。
「こっちも忘れないでよ!」
至近距離から矢を放った。
「っぐ……!」
矢はこった姫の腕を貫いた。だがすぐさま返ってきたのは、強烈な平手打ちだった。
「きゃああっ!」
良子の身体も軽々と吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「次はこっちだっ!」
怒声と共に、次郎が風魔手裏剣を投げ放った。
空気を切り裂く轟音が広場を震わせる。
「今度こそぉぉぉっ!!」
刃は渦を巻きながら迫り、こった姫の肩を抉った。
紫の血が雨のように散り、広場全体を不吉な絵画に塗り替えた。
「ぐっ……!」
だが怨嗟の呻きはすぐ怒号に変わり、こった姫の膝が次郎の胸を突き上げた。
「ぐはっ……!」
骨が軋む音が生々しく響き、次郎の身体は地面にめり込み、口から血を吐いた。
「ぐぅっ……まだ……やれるっ!」
泥と血にまみれながらも、彼らは立ち上がる。
殴り、蹴り、噛みつき、棍棒、小太刀、クナイ、手裏剣、ボーガン――ありったけの力で放たれた技が砂煙の中で交錯した。
火花と爆音、悲鳴と咆哮。
戦場はまるで地獄絵図だった。
拳と拳がぶつかれば骨が鳴り、蹴りと棍棒が激突すれば火花が散る。
砂と血が入り乱れ、誰もが息を切らせて立ち尽くす。
やがて――。
互いの姿は、見る影もなかった。
こった姫の鱗は剥がれ落ち、顔は腫れ上がり、紫の血にまみれている。
PENPENZの羽毛は毟られ、体中は斬り傷と痣に覆われ、誰が誰かすら判別できないほど膨れ上がっていた。
口の中まで腫れて言葉も発せず、荒い息だけが響いていた。
「あ、あタケはをきたかな?」(バタケは起きたかな?)
次郎がそろそろ変わってほしい雰囲気をだす。
「あう、あうぶんあない?」(もう十分じゃない?)
花子も止めたそうだ。
「あうたちあうあったよ」(ボクたちがんばったよ)
三郎は十分に役目を果たしたと考えている。
「あこしにあこうよ」(起こしに行こうよ)
良子も賛成のようだ。
しかし、太郎は――
「あて」(まて)
ハァハァ肩で息をしながら。
「あでたちでなんとかなる……。あぎのこうあけあさいごだ…!」(おれたちでなんとかなる……。次の攻撃で最後だ!)
「あ……あぁぁっ!!」
太郎が最後の力を振り絞った。
血に濡れた手で棍棒を握り直し、全身の骨と筋肉が悲鳴を上げるのも構わず、天を突くように振りかぶる。
ただ一点、怠惰の魔人の頭上を狙って――渾身の叩きつけを放った。
「あ、あんなとこをうぇー!」(こ、こんなところでー!)
こった姫の瞳が一瞬だけ見開かれた。
恐怖か、驚愕か――その答えを探す間もなく、棍棒が振り下ろされた。
……――ぐしゃっ!
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