第11話:冒険者ギルドでの出会い
リクとエリナは、ライアンに案内されて冒険者ギルドの建物へと足を踏み入れた。
それは木造ながらも高い天井と頑丈な柱を備えた重厚な造りで、広い入口の扉を開いた瞬間、熱気を帯びた喧騒が二人を包み込んだ。
中では、あらゆる年代と装いの冒険者たちが行き交い、歓声や怒鳴り声、談笑が入り混じる。革鎧や金属製の防具を身にまとった者、ローブ姿の魔法使い風の者、あるいは獣人やエルフらしき者もいて、まるで物語の中に迷い込んだような非日常が広がっていた。
「ここが冒険者ギルドだ。俺みたいな熟練者もいれば、今日登録する駆け出しもいる。いろんな奴が混ざる場所さ」
ライアンは誇らしげに笑いながら肩をすくめて見せた。その立ち姿は堂々としていて、この賑やかな空間にまるで溶け込んでいるかのようだった。まさに“冒険者の中の冒険者”といった風格があった。
リクとエリナはその熱気に飲まれそうになりながらも、周囲を見回して目を輝かせていた。
「すごい……こんなにたくさんの人が、それぞれ違う目的で集まってるなんて……」
エリナは驚きと感動が入り混じったような声を漏らした。視線の先には、壁一面に掲げられた巨大な掲示板。紙がぎっしりと貼られ、そこに人々が群がっては話し合っている。
「リク、あれ……あれが依頼ってやつなのかな?」
「そうだ。それが依頼書ってやつ。討伐、採集、護衛なんかが定番だな」
ライアンが説明する中、すぐ近くのテーブルでは重装備の男たちが地図を広げ、真剣な表情で作戦を練っていた。対照的に、片隅では酔った冒険者たちが大声で酒を煽りながら笑い転げている。
「でも……俺たちにはどれも難しそうに見えるな」
リクは貼られている依頼書をいくつか見比べ、苦々しい表情を浮かべた。
《指定魔物の討伐》《商隊の護衛》《盗賊団の掃討》――どれも想像するだけで危険が伴いそうな内容ばかりだった。
「心配すんな。初心者向けの依頼だってちゃんとある。お前らにはいきなり魔物退治なんて無理だって、ギルドも分かってるさ」
ライアンはそう言いながら掲示板へと歩み寄り、慣れた手つきで数枚の依頼書を抜き取って、内容を読み上げ始めた。
「たとえば、これなんかどうだ? 『薬草採取』の依頼。山のふもとで決まった薬草を集めるだけ。魔物もほとんど出ない地域だから、安全性は高い」
「薬草か……だったら、俺たちにもできそうだな」
リクは慎重な声色でそう返す。まだ緊張は残っているが、少しだけ自信が芽生えたようだった。
「私、薬草の種類ってちゃんと見分けられるかな……でも、頑張ってみたい」
エリナも不安そうな表情を見せながらも、意欲は感じられる瞳をしていた。
「よし、それじゃあまずはギルドへの登録からだな。依頼を受けるには、正式な登録が必要だ。こっちに来い」
ライアンに導かれて、二人はギルドの奥へと向かった。そこには整然と並んだカウンターがあり、受付には数人の職員が立っていた。その中の一人――肩までの栗色の髪を持つ女性が、笑顔で彼らを迎えた。
「いらっしゃいませ。もしかして、冒険者登録をご希望ですか?」
「はい、そうです!」
リクは声が少し上ずりながらも、はっきりと答えた。エリナも隣でこくんと頷く。
「では、こちらの用紙にお名前と年齢、それから得意なことをお書きくださいね」
女性職員は、落ち着いた制服に身を包み、柔らかく丁寧な口調で二人を安心させるように話しかけた。
二人は紙を受け取り、カウンターの一角に設けられた机で記入を始める。リクは「剣術・訓練中」と書き、エリナは「魔法・少し使えます」と控えめに記した。手にしたペンはずっしりと重く、書き慣れない手元がわずかに震える。
「……書けた。エリナ、大丈夫か?」
「うん……緊張してるけど、頑張るって決めたから」
書き終えた用紙を職員に手渡すと、彼女はにっこりと微笑みながら奥の部屋へと消えた。しばらくすると、手にした二枚のカードを戻ってきた彼女が差し出した。
「こちらがあなたたちの冒険者登録証になります。これで、正式にギルドに所属する冒険者として活動できますよ。初めての依頼、お気をつけて行ってらっしゃい」
「ありがとうございます……!」
エリナが深く頭を下げ、リクも神妙な面持ちでカードを受け取った。小さなカード一枚だったが、それは二人にとって、大きな世界への扉を開く鍵だった。
「さあ、登録も終わったし、早速薬草採りに出かけるとするか!」
ライアンがにやりと笑い、リクの背中をぱんと軽く叩く。少し痛かったが、不思議と心が引き締まった。
リクとエリナは顔を見合わせ、自然と笑顔がこぼれる。
新しい世界への第一歩。
それはまだ小さく、たどたどしい一歩かもしれない。だが、希望と覚悟を胸に抱いた旅立ちだった。
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