幕間?【PENPENZ】25:こった姫、激情のステージ
こった姫の白い喉がぶるぶると震え、艶やかだった唇の端から粘ついた泡が糸を引いて零れ落ちる。
肩をわなわなと震わせ、紫色に変色した唇をこれでもかと歪めると、その顔はさっきまでのこった姫ではなかった。
妖艶さを帯びていた微笑は消え失せ、怒りに満ちた獣の貌へと変貌していく。
次の瞬間、その怒りが爆ぜた。
「――ふざけるんじゃないわよォォッ!!」
耳をつんざくような金切り声。
声は甲高く裏返り、舞台役者のような抑揚をまとって広場全体を揺らした。
その芝居がかった響きは、もはや狂気と殺気に満ちた怪物の咆哮に変わっていた。
「たかが“覚り”を封じられたぐらいで、いい気になるんじゃないわッ! アタシは――怠惰の魔人! 地力が違うのよッ! このクソペンギン共ッ!」
その叫びは雷鳴のように響き渡り、空気そのものを震わせる。
妖艶さすらあった顔は完全に鬼と化し、鬼気迫る形相で牙を剥いた。
足元の石畳がざわめき、細かな砂塵さえも怯えたかのように舞い上がる。
「ひっ……!」
三郎が小太刀を取り落としかけ、慌てて拾おうとする手が震える。
背中を丸めてじりじりと後退しながら、恐怖に声を裏返らせた。
「に、にいちゃん……やっぱり勝てるわけないよ……バタケに任せようよぉ……!」
良子も大粒の涙を浮かべ、ボウガンを抱きしめるように胸に押し当てる。
必死に兄へ縋りつくように視線を送った。
「だ、だめだ!」
太郎は必死に声を張り上げる。
棍棒を握る手は汗で滑りそうだったが、それでもぎゅっと力を込め直した。
「バタケだって……ギリギリまで頑張れって言ったろ! 俺たちが時間を稼ぐんだ!」
「で、でも……」
「む、無理だよ……絶対に無理……!」
三郎と良子の声は震え、涙がにじんでいた。
「本当にピンチになったら……」
次郎がかすれた声で呟く。
「バタケが来てくれる……絶対に……」
「うん……そうよね……」
花子は両手の震えを必死に抑えながらクナイを構え直した。
その口元には引きつった笑み。
それでも仲間を鼓舞しようと、無理やりにでも笑ってみせる。
「だから……できるところまで、やるんだよ!」
「そ、そうだよね……」
「バ、バタケがくるまで……がんばらなきゃ……」
弱々しくも、三郎と良子も小さくうなずいた。
それは決して力強いものではなかったが、たしかに彼らをつなぐ決意の火種だった。
だが――こった姫の切れっぷりはさらに加速していく。
喉を震わせ、早口でまくし立てるその声は、もはや呪詛にも似ていた。
「はぁあああ!? めんどくさいのにぃ……! あんたらペンギン風情がぁ、ちょっと当てられただけで調子に乗ってんじゃないわよぉおお!」
こった姫の叫びは、広場を揺らすほどの勢いだった。
「私が誰だと思ってるの!? 怠惰の魔人、この世に選ばれし――こった姫よッ!」
唾を飛ばし、爪を振り上げながら、彼女はなおもまくし立てる。
「なによその目はぁ! なによその武器はぁ! 子供の遊び道具で戦ってるつもり!? 間抜けな面下げてガタガタ震えて……何が忍者だ! 何が勇敢だ! 笑わせんじゃないわよぉぉ!」
その怒声は怒涛のごとく止まらない。
「――あんたたちの、そのちっぽけな体も! 安っぽい根性も! 全部ぜぇんぶ、私の前じゃ紙くずみたいなもんなのよぉお!」
髪を振り乱し、瞳孔を細めながら、最後の一撃を叩きつける。
「この場所ごと粉々にして! ちぎって踏み潰して! 誰一羽だって……逃がさないんだからぁあああああああ!」
瞳孔は細く、まるで蛇や蜥蜴のように爬虫類めいた鋭さを帯びる。
呼吸のたびに喉からゼェゼェと不気味な異音が漏れ、髪は逆立ち、広場全体を覆う殺気は嵐のように渦巻いた。
PENPENZの小さな体は、恐怖に抗えず震え続ける。
膝が折れそうになり、羽がぶるぶると震え、互いの顔を必死に見合わせた。
「ひぃーーーーっ! 足が、足が動かないっ!」(太郎)
「あ、あわわわわっ……頭が真っ白だぁ……!」(次郎)
「にいちゃんっ、手、手握ってぇ!」(花子)
「やだよぉ……帰ろうよぉ……!」(三郎)
「も、漏らしそう……ほんとに漏れるぅぅ!」(良子)
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、それでも彼らは膝を折るまいと踏ん張る。
「そ、そろそろ……」
太郎が喉をひくつかせながら、必死に声を振り絞った。
「バ……バタケ……回復したかなぁ……」
震えた囁きが、互いの間で小さく交わされる。
絶望と恐怖に押しつぶされそうになりながらも、PENPENZの足はまだ前にあった。
ただひたすら――兄弟のため、バタケのために。
小さな心を震わせながら、彼らは広場に立ち続けていた。
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