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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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幕間?【PENPENZ】25:こった姫、激情のステージ

 こった姫の白い喉がぶるぶると震え、艶やかだった唇の端から粘ついた泡が糸を引いて零れ落ちる。

 肩をわなわなと震わせ、紫色に変色した唇をこれでもかと歪めると、その顔はさっきまでのこった姫ではなかった。

 妖艶さを帯びていた微笑は消え失せ、怒りに満ちた獣の貌へと変貌していく。

 次の瞬間、その怒りが爆ぜた。


 「――ふざけるんじゃないわよォォッ!!」


 耳をつんざくような金切り声。

 声は甲高く裏返り、舞台役者のような抑揚をまとって広場全体を揺らした。

 その芝居がかった響きは、もはや狂気と殺気に満ちた怪物の咆哮に変わっていた。


 「たかが“覚り”を封じられたぐらいで、いい気になるんじゃないわッ! アタシは――怠惰の魔人! 地力が違うのよッ! このクソペンギン共ッ!」


 その叫びは雷鳴のように響き渡り、空気そのものを震わせる。

 妖艶さすらあった顔は完全に鬼と化し、鬼気迫る形相で牙を剥いた。

 足元の石畳がざわめき、細かな砂塵さえも怯えたかのように舞い上がる。


 「ひっ……!」


 三郎が小太刀を取り落としかけ、慌てて拾おうとする手が震える。

 背中を丸めてじりじりと後退しながら、恐怖に声を裏返らせた。


 「に、にいちゃん……やっぱり勝てるわけないよ……バタケに任せようよぉ……!」


 良子も大粒の涙を浮かべ、ボウガンを抱きしめるように胸に押し当てる。

 必死に兄へ縋りつくように視線を送った。


 「だ、だめだ!」


 太郎は必死に声を張り上げる。

 棍棒を握る手は汗で滑りそうだったが、それでもぎゅっと力を込め直した。


 「バタケだって……ギリギリまで頑張れって言ったろ! 俺たちが時間を稼ぐんだ!」


 「で、でも……」

 「む、無理だよ……絶対に無理……!」


 三郎と良子の声は震え、涙がにじんでいた。


 「本当にピンチになったら……」


 次郎がかすれた声で呟く。


 「バタケが来てくれる……絶対に……」


 「うん……そうよね……」


 花子は両手の震えを必死に抑えながらクナイを構え直した。

 その口元には引きつった笑み。

 それでも仲間を鼓舞しようと、無理やりにでも笑ってみせる。


 「だから……できるところまで、やるんだよ!」


 「そ、そうだよね……」

 「バ、バタケがくるまで……がんばらなきゃ……」


 弱々しくも、三郎と良子も小さくうなずいた。

 それは決して力強いものではなかったが、たしかに彼らをつなぐ決意の火種だった。


 だが――こった姫の切れっぷりはさらに加速していく。

 喉を震わせ、早口でまくし立てるその声は、もはや呪詛にも似ていた。


 「はぁあああ!? めんどくさいのにぃ……! あんたらペンギン風情がぁ、ちょっと当てられただけで調子に乗ってんじゃないわよぉおお!」


 こった姫の叫びは、広場を揺らすほどの勢いだった。


 「私が誰だと思ってるの!? 怠惰の魔人、この世に選ばれし――こった姫よッ!」


 唾を飛ばし、爪を振り上げながら、彼女はなおもまくし立てる。


 「なによその目はぁ! なによその武器はぁ! 子供の遊び道具で戦ってるつもり!? 間抜けな面下げてガタガタ震えて……何が忍者だ! 何が勇敢だ! 笑わせんじゃないわよぉぉ!」


 その怒声は怒涛のごとく止まらない。


 「――あんたたちの、そのちっぽけな体も! 安っぽい根性も! 全部ぜぇんぶ、私の前じゃ紙くずみたいなもんなのよぉお!」


 髪を振り乱し、瞳孔を細めながら、最後の一撃を叩きつける。


 「この場所ごと粉々にして! ちぎって踏み潰して! 誰一羽だって……逃がさないんだからぁあああああああ!」


 瞳孔は細く、まるで蛇や蜥蜴のように爬虫類めいた鋭さを帯びる。

 呼吸のたびに喉からゼェゼェと不気味な異音が漏れ、髪は逆立ち、広場全体を覆う殺気は嵐のように渦巻いた。


 PENPENZの小さな体は、恐怖に抗えず震え続ける。

 膝が折れそうになり、羽がぶるぶると震え、互いの顔を必死に見合わせた。


 「ひぃーーーーっ! 足が、足が動かないっ!」(太郎)

 「あ、あわわわわっ……頭が真っ白だぁ……!」(次郎)

 「にいちゃんっ、手、手握ってぇ!」(花子)

 「やだよぉ……帰ろうよぉ……!」(三郎)

 「も、漏らしそう……ほんとに漏れるぅぅ!」(良子)


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、それでも彼らは膝を折るまいと踏ん張る。


 「そ、そろそろ……」


 太郎が喉をひくつかせながら、必死に声を振り絞った。


 「バ……バタケ……回復したかなぁ……」


 震えた囁きが、互いの間で小さく交わされる。

 絶望と恐怖に押しつぶされそうになりながらも、PENPENZの足はまだ前にあった。

 ただひたすら――兄弟のため、バタケのために。

 小さな心を震わせながら、彼らは広場に立ち続けていた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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