幕間?【PENPENZ】23:絶望?いやいや、ちょっと休憩すれば回復するし!
こった姫が血に濡れた腕をひらりと振る。
その動作はまるで舞の一幕のように優雅であったが、次の瞬間――巨体のバタケが宙を舞い、人形のように無造作に投げ捨てられた。
重々しい衝撃音が地を震わせ、岩が砕ける音と共に、その巨体はPENPENZのすぐ傍らに叩きつけられる。
「ば、バタケが……! 五忍衆を倒した、あのバタケが……!」
太郎は絶望に顔を青ざめさせ、膝が勝手に震え出す。
「嘘だろ……あんな化け物じみた奴に、オレたちがかなうわけねぇじゃんか……!」
次郎は膝をつき、頭を垂れた。
「だったら……せめて苦しまないように……一思いに殺してほしい……」
花子は唇を噛みしめ、両手で顔を覆った。指の隙間からは、今にも零れそうな涙が光っていた。
「お、終わった……ボクたち終わった……」
「ど、どうせなら……一撃で……苦しまないで殺してほしい……」
三郎と良子が互いに震える翼を寄せ合い、今にも泣き出しそうな声でつぶやいた。
希望は、すべて潰えたかに見えた。
だが――。
「……勝手に殺すな……」
地面に伏したまま、バタケの低い声が空気を震わせた。
全身は血にまみれ、呼吸は細く途切れ途切れ。巨体は動かない。
その瞳は濁り、光を失いかけていた。だが、消えゆく火の残り火のように、ほんの一筋の闘志だけが燃え残っていた。
「……少し……休めば、また立てる……。お前たちだって……そうだろう……」
その言葉に、PENPENZは一斉に顔を上げる。
そう――彼らには当たり前のことだった。
どんなにボロボロにされても、少し休めばまた立ち上がれる。
それはPENPENZにとって、生まれながらにして備わった“当たり前の力”。(一般には違う)
だからバタケの言葉は、恐ろしくも、疑う余地のない真実だった。
「……そうだった。死んでなければ、何の心配もいらなかったんだ……!」
太郎が力強く叫ぶと、兄弟たちの顔に一気に笑顔が戻った。
「そうだよ! バタケだって、ちょっと待てば回復する!」
「そっか……ボクたちだって同じなんだ……!」
小さな胸の中に、再び熱が宿る。
「私は……深手を負った……すぐには回復せん……だから……その間……時間を稼いでくれ……」
バタケの声は弱々しかった。だがその響きは、不思議と仲間の心を奮い立たせる。
「簡単に諦める……なよ。……ギリギリまで、がんばれ……! おまえ……たちがピンチに……なったら……必ず助けるから……」
「わかったー!」(太郎)
「バタケが復活するまで、オレたちが時間を稼ぐ!」(次郎)
「絶対に諦めない!」(花子)
「「危なくなったらぜーーーたい、助けてね?」」(三郎、良子)
涙を拭った彼らの目には、もう迷いはなかった。
小さな翼を広げ、震える足を踏み出し、こった姫へ向かって駆け出していく。
その姿を見て、バタケは心の中でそっと呟いた。
(……お前たちは、すでに強い……。私はもう何もできないが……お前たちが生き残る未来を信じている……がんばるんだぞ……)
心の中でつぶやいた言葉は、誰に届くこともない。
だがその響きは、まるで彼自身が子らに手を添えて背を押すような、温かな力を宿していた。
――思えば、己の人生は戦いばかりだった。
剛力を振るい、数多の敵を薙ぎ払い、それでも心のどこかで「守れるもの」を探していた。
ようやく出会えた。
小さな羽音を響かせながらも、何度倒されても立ち上がる愚直な存在たち。
あの愛すべき五羽に、最後の願いを託せるのなら……それで十分だ。
重く沈む胸の奥に、かすかな安堵が広がる。
目を閉じると、もう痛みはなかった。
代わりに思い浮かんだのは、幼き者たちの笑顔と、また空を翔ける未来の姿。
巨体は微かに震え、そして静かに沈黙した。
もう二度と、その大きな腕が動くことはない。
バタケは人知れず、しかし誇り高く――仲間を想いながら、息を引き取った。
* * *
一方で、こった姫は血に濡れた指先を振りながら、大げさにため息を吐いていた。
「あーあ、行きたくないのよねぇ……ほんと、こういうの性に合わないのよぉ……。でもぉ、魔王様もきっともう分かってるだろうし……呼び出しに応じないわけにもいかないのよねぇ……」
舞台に出たくない役者のように肩をすくめ、ぶつぶつと独り言をこぼす。
だが――。
PENPENZが一歩踏み出した途端、その顔つきががらりと変わる。
妖しく光る瞳。不敵に吊り上がった唇。そこにあるのは狡猾さと残虐さだけだった。
「でもまぁ、その前にぃ……目の前のゴミを片付けなきゃねぇ♡」
「バタケがいるから、怖くないよぉ!」
PENPENZは声を揃え、胸を張る。
太郎が仲間へ叫ぶ。
「倒す必要はない! バタケが回復する時間を稼ぐんだ!」
「「「「おぉぉぉーーっ!!」」」」
五羽の声が重なり合う。
その叫びは、小さな体からは想像できないほど力強く、霧の中に響き渡った。
PENPENZはこった姫へと一直線に突撃する――。
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